なかなか治らない肩こりや腰痛、神経痛に悩む人は多い。痛みはけがや病気などからだの異常を知らせる重要なシグナルだが、長引くと日常生活に大きな支障となる。慢性化する原因は血行の悪さや筋力の低下にもある。痛みの専門外来「ペインクリニック」の医師に、痛みとうまくつきあうコツを聞いた。
「慢性痛で来院する人の9割に、筋肉痛に似た症状が見られる」。こう説明するのは帝京大学付属溝口病院(川崎市)でペインクリニックを担当する小島圭子助手。一見すると神経痛など筋肉と無関係な慢性痛に悩む人が、筋肉痛になるのはなぜだろうか。
原因は自律神経である交感神経の興奮で生じる「痛みの悪循環」と呼ばれる現象だ。けがや病気で急に痛みを感じると、?交感神経が興奮して筋肉が緊張する?血管が収縮し血行が悪くなり、老廃物や痛みを感じる物質が排出されず筋肉にたまる?筋肉が痛くなり、交感神経が興奮し続ける。
もともとある痛みの原因にひどい筋肉痛が加わり、慢性化していく。
痛みを何週間も我慢し続けていると、脳に「痛みの回路」ができると言われている。脳の神経網が「痛い」という信号をより伝えやすくなる。ささいな刺激にも敏感になり、なかなか痛みは取れない。
痛みをため込まないためには、マッサージやストレッチで筋肉の緊張をとり血行をよくしよう。指先でこめかみをゆっくりもむと、緊張性の頭痛が楽になる。手を載せたまま頭を前や左右に倒すと、筋肉が伸びて肩こりに効果がある。筋肉の緊張をやわらげるためには十分な睡眠も必要。入浴も効果的で38度前後のぬるめのお湯にゆっくりつかるとよい。
60代以降の慢性痛で多いのが、加齢による腰痛やひざの痛み。年をとってくると骨が微妙に変形し、もろくなってくる。筋力も衰える。「まだまだ若い」と思って激しい運動などをすると、骨や筋肉に大きな負担がかかり、痛みを発症しやすくなる。
簡単な運動で腹筋や背筋、脚の筋肉や足腰の骨を鍛えることで、痛みの解消につながる。体力に自信がない人は、いすにつかまりながらトレーニングをしてみよう。例えば、1分間片足立ちするだけで1時間歩いたのと同じ負荷が足腰の骨にかかり、強くなる。「自分が楽しめる運動を組み合わせて、無理なく続けることが痛みによる寝たきりを防ぐポイント」と三鷹痛みのクリニック(東京都三鷹市)の比嘉正祐院長は勧める。
頭痛や腰痛などのひどい痛みがあって病院で精密検査を受けても、原因がよくわからないことは多い。ストレスや悩みが引き金になって痛みの症状がでることもある。痛みが続くと、うつ状態になる人もいる。
鎮痛薬が効かず痛みがだんだんひどくなる場合や、安静にしていても我慢できないほどひどい痛みがあると、がんなど深刻な病気が隠れているかもしれない。
数週間、筋力や骨を鍛える体操を続けても症状の改善が見られない場合や、原因が不明で心配な時は、ペインクリニックに相談してみよう。
ペインクリニックは痛みを治療する専門外来。大学病院や総合病院のほか、開業医も増えている。頭痛や肩こりといったよくある慢性痛のほか、手術後に残る痛み、がんの痛み、原因不明の痛みなど、急性から慢性までありとあらゆる痛みの相談に乗ってくれる。
治療は麻酔科医があたる。局所麻酔で神経を一時的にまひさせ筋肉の緊張をとる「神経ブロック」や、投薬、生活指導、心理療法、はり・きゅうなどを組み合わせる。原因不明の痛みを診断して、適切な専門科に紹介するという役割も担う。
神経ブロックなどの治療法で血行を良くすると、原因がよくわからない突発性難聴などの病気にも効果的なことがわかってきた。医師によって得意な病気や治療法が異なるので、事前にホームページや電話で確認するとよい。約20年前からペインクリニックを手がける代々木病院(東京・渋谷)の山本桂子医師は「つらい痛みは我慢せずに、早めに受診してほしい」と話す。
(北松円香)
・頭痛
・首や肩、背中のこり、五十肩
・三叉(さんさ)神経痛や帯状疱疹(ほうしん)後の痛みなどの神経痛
・手術の後に残る痛み
・腰痛やひざなどの関節痛
・がんの痛み(そのほかにも、ありとあらゆる痛みについて相談できる)
・顔面神経まひ、突発性難聴、冷え性なども治療できる
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・こめかみをゆっくりもみほぐす→筋肉が緊張するタイプの頭痛に効果
・頭に手をのせ、前、左右に10秒ずつ伸ばす→肩こりに効果
・後に足をひいてアキレスけんをのばしながら、上半身を壁に近づけて押す→腹筋や背筋をきたえて、肩こりや腰痛に効果
・1分間いすにつかまりながら片足立ち→足腰の骨が強くなり痛みが出にくくなる
・いすにつかまりひざの屈伸運動→1日3回、1回あたり5−20回が目安 |
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