眠気覚ましやリラックス効果を期待して飲むことの多いコーヒーだが、糖尿病やがんなど生活習慣病の予防に役立ちそうなことが最近の研究でわかってきた。現在と同じスタイルでコーヒーが飲まれるようになったのが15世紀後半。当時から注目されてきたコーヒーの効能が、科学的に明らかにされつつある。
「1日1杯のコーヒーで、糖尿病を予防できるかもしれない」。こう話すのは、国立国際医療センターの野田光彦部長。虎の門病院に勤務していた3年前、東京都葛飾区の住民を対象に、コーヒーを飲む習慣と糖尿病との関連性について調べた。コーヒーを飲む習慣が「週5回以上」の人は、「週1回未満」の人に比べて、日本人に多い2型糖尿病になるリスクが0.61倍だった。
コーヒーを飲む人に糖尿病になる人が少ないことは以前から知られていた。いくつかの疫学調査をまとめた海外の研究でも、2型糖尿病のリスクを減らすとの報告がある。
どうしてコーヒーを飲むと糖尿病になりにくいのか。野田部長は「コーヒー成分のカフェインとクロロゲン酸が、複合的に働いているため」と解説する。どちらも血糖値の上昇を抑える働きが動物実験で確かめられている。コーヒーに含まれるマグネシウムにも、血糖値を下げるインスリンの感受性を高める働きがあるという。
慶応義塾大学客員助教授の石川俊次・ソニー人事センター統括産業医は、コーヒーが肥満予防につながるかどうか研究する。カフェインには脂肪分解を促す効果があり、自律神経である交感神経を刺激して血圧や脈拍を高めエネルギー消費を高める働きもあるという。「コーヒーを飲むだけでやせるのは難しいが、ダイエットを手助けする可能性はある」と指摘する。
血管内に血栓と呼ぶ血の塊ができて発症する心筋梗塞(こうそく)や脳梗塞。コーヒーを飲むと、こうした死につながる病を、未然に防ぐことになるかもしれない。善玉コレステロール(HDLコレステロール)を増やす働きが明らかになってきたため、動脈硬化になりにくくする可能性があるからだ。「様々な生活習慣病を予防するコーヒーの効能が、科学的に次々とわかるようになってきた」(石川客員助教授)
厚生労働省研究班による約9万人を対象とした大規模疫学調査では、肝臓がんを予防する効果を示す結果になった。「1日5回以上飲む」人は、「ほとんど飲まない」人より発病率が4分の1に低下するという。
幅広い生活習慣病の予防効果が期待できるコーヒー。できれば、おいしく飲みたい。珈琲屋バッハ(東京・台東)オーナーの田口護氏によると「新鮮でひきたてのコーヒー豆を、手に入れることが大切」という。焙煎(ばいせん)日や出荷日が明示されている物を選び、2週間以内に使いきる分量を買う。新鮮なコーヒー豆ほど有効成分の効果が高い。
余分な脂肪分を取り除くことができるペーパードリップがおすすめ。ひきたてのコーヒー豆の場合、82度前後の湯を、コーヒーをふくらませながら入れるのがコツだ。
もちろんコーヒーにもマイナス面はある。例えば、カフェインには乳児死亡や流産を増やすリスクがあるとの報告もある。「妊娠中の女性は飲みすぎないこと」(野田部長)。コーヒー好きの人でも、1日3杯までにしておこう。
カフェインによって交感神経の働きが活発になることで、血圧や脈拍が上がりやすくなる。このため、動脈硬化や狭心症の症状が重い人は避けた方がよい。また、カリウムを多く含むため、高カリウム血症や腎不全の人も飲まない方がよい。
1日何杯飲んでも、健康に問題はないのだろうか。飲みすぎると胃をやられるイメージがあるが、コーヒーと健康に関する様々な情報を保有する英国のコーヒー科学情報センターの報告によると、コーヒーの飲用と、胃かいようや胸焼けとの関連性はなかった。
石川客員助教授は「飲みすぎると眠れなくなったり頭痛がしたりする人は、1日5、6杯を上限に、少しずつ減らす努力をしてみよう」とアドバイスする。 (合田義孝)
●自律神経の働きを高めて肥満を防ぐ
●運動前のコーヒーでダイエットの効果を高める
●血糖値の上昇を抑えて糖尿病を予防する
●善玉コレステロールを増やして動脈硬化を防ぐ
●抗酸化物質のクロロゲン酸ががんを予防する
●コーヒーの香りでリラックス効果
●カフェインによる脳の活性化で計算能力アップ
(注)厚生労働省の研究班の調査結果よ
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