30代は腰痛になる人の割合が高くなる年代だ。しかし腰痛で病院を受診しても、手術が必要なほどの重症でないかぎり、鎮痛剤と湿布を出されて帰されることが多い。日常的に付きまとう腰の痛みを楽にするにはどうすればよいのだろう。
イラストレーターのAさんは、34歳ごろから腰の鈍痛に悩まされ始めた。根をつめて大きな仕事をこなした後、きまって痛くなる。ひどいときにはぎっくり腰になり、3、4日はベッドで寝たままに――。
「働く女性にとって30代はもっとも腰痛に襲われやすい年代」と指摘するのは、ボディ&メンタルケアクリニック院長で外科医の鈴木文雄医師だ。「20代のうちなら一晩休めば血行不良は回復していても、30代になると翌朝まで持ち越し蓄積し、腰痛発症に至る人が多い」
血行不良が発生
この腰痛。どんなメカニズムで起きるのだろう?鈴木医師によると、多くの腰痛は、ストレスや過労から生じる血行不良が原因で発生する。過労のまま同じ姿勢や同じ動作を長時間くり返すと、いつも同じ筋肉や筋しか動かさない状態が続く。動かさない部分は血流が滞り、筋肉が萎縮したり筋がこわばったりして神経を圧迫、痛みが走り、腰痛となる。
毛細血管が詰まり、筋や筋肉などの組織が弱って神経を圧迫する現象が、重いものを持った時など急激に起きるとぎっくり腰になる。腰に負担がかかる作業を長く続けている間に、腰椎(ようつい)のクッション役を果たす椎間板が磨り減って突起し、それが神経を圧迫して痛むのが、椎間板ヘルニアである。
ストレスも血流の大敵だ。自律神経の働きを阻害し、血液の流れを滞らせるためだ。
東洋医学でも腰痛に対する考えは西洋医学と同様だ。「ほとんどの腰痛の原因は冷えからくる血行不良にある」と目黒西口クリニック院長の南雲久美子医師は話す。
冷えは血行不良が引き起こす。そして冷えは年齢を重ねるにつれ、女性の体に様々な症状をもたらす。「東洋医学の考え方では、女性の体は35歳ごろに大きく変わる。この年代で冷えを放置しておくと、腰痛を発症しやすい体質になる」(南雲医師)。
では、どうすれば血行がよくなるのか。「姿勢を変え筋肉を伸ばすこと、入浴、食事の3点に注意してほしい」と鈴木医師は言う。
具体的に言うと、職場では1時間に1度席を立ち、周囲を歩くとよい。意外な盲点は就寝時の姿勢だ。寝る時にあおむけになる時間が長いと、腰の筋肉が縮んで血流が悪くなる。しかし、睡眠中の姿勢は自分では制御できない。鈴木医師は「朝、起きる時に腰を伸ばすなどの体操(別表)を習慣づけてほしい」と話す。
入浴の目安は40度の湯に20分だ。体の中心部にある動脈を緩めるには、ぬる湯の長風呂がベスト。熱い湯に短時間やシャワーでは体表しか温まらない。動脈を活性化すると毛細血管の流れがよくなる。
コーヒーは昼に
食事療法も重要だ。「血流をよくする成分を含む食物を日常的に食べること。不飽和脂肪酸EPAを含むイワシ、サバなどの青みの魚、高分子多糖類のフコイダンを含有するひじきやもずくは腰痛改善に欠かせない」と鈴木医師。南雲医師は「飲み物の見直し」を挙げる。体を冷やす作用のあるコーヒー、緑茶を飲むなら日中に、夜は体を温める紅茶やココアがよい。
さらに女性ならではの注意点として、南雲医師は「首、お腹、足首の3点を暖めてほしい」と言う。「特に女性ホルモンが変化する生理中と排卵日は体の状態が不安定になる。レッグウォーマーや腹巻を着用し、流行のキャミソールやローライズのパンツは厳禁だ」だ。両医師は「小さな習慣の積み重ねで腰痛は防げるし改善できる」と口をそろえた。
もっともまれにだが腰痛の背後に、子宮の病気や悪性腫瘍(しゅよう)など重い病が潜んでいることもある。日常的な対応をする一方、一度は精密検査を受けた方が安心だ。
(1)起床時
あごを胸につけ、ひざを胸に引き寄せ腰を丸める。1分
手のひらを床につけ、あごは胸につける。お尻を引いてかかとにつける。1分
(2)朝晩
あおむけになって腰の上で両手を組み、ひざをそろえて立てる
頭を上げてへそを見る。 5秒を10回
(3)朝晩
あおむけになる。手のひらを床に 腰を上げる。5秒を10回
(注)鈴木文雄医師による。(1)(2)は慣れれば無理のない範囲で時間を延ばしていく
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