現代のストレスの原因の御三家は「職場・家庭・金銭」である。職場では様々な人間関係が渦を巻き、コンピュータにまでこき使われる。帰宅すると親子、夫婦、義理などで思うようにいかないことも多い。金銭は言うまでもない。 ストレスの解消の大原則はその源泉と決別することだが、それでは生きていけない。そこでささやかな「ストレス一時解消」のウオーキングを考えてみよう。 浮世の悩みから解放されるにはまず戸外に出ることだ。初夏の空は青く、野山は新緑に覆われている。花の色も鳥のさえずりも、自己主張の限りを尽くす。こうなると人間も自分の意志で歩くという自己主張をしたくなるではないか。 実際に歩いていると、ころ合いのタイミングで出合いの光景が次々に目に飛び込んできて、悩みごとにこだわることはほぼ不可能になる。 「ストレス解消」は、ウオーキングの結果としても目的としても常に高位にランクされる。 雨に降り込められた子供たちは狭い家でけんかしたりするし、散歩に連れて行かないと犬も怒りっぽくなる。散歩やウオーキングはその解決策なのである。そういえば、夫婦喧嘩の後に街の中を一回り散歩してくると、頭の興奮が冷めてくるものだ。昔からの哲学者は歩きながら思索をめぐらせて悟りを開いたという。 それにしても現代人はなべて運動不足である。筆者の調査では40代が最も運動不足を感じていて(約80%)、30代も73%とほぼ同様である。多くの人が一日三千歩程度の活動量であって、健康を維持するための目標とされる一万歩には程遠いものがある。 通勤時にバス、電車を乗り継いだりすれば、その途上で歩く機会があるので運動不足はやや減るし、朝や夕方に意識的なウオーキングに励めば目標は達成できる。何よりもストレスから解放されて明るい生活になるに違いない。 (九州保健福祉大教授 波多野 義郎)(2000.5.20日本経済新聞)
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