糖尿病・血管系疾患など悪化の恐れ
口腔ケア、若いうちから


中高年の5人に4人が歯周病を患っている。放っておくと年をとってから歯が抜ける大きな原因に。糖尿病を中心とした生活習慣病を悪化させることにもなりかねない。若いうちから、適切な口腔(こうくう)ケアを心がけたい。

手や足の血管が詰まり、悪化すると壊死(えし)して切断することもあるバージャー病。国内に約1万人の患者がいると言われている。東京医科歯科大のチームは、歯周病との関連性を調べ、7月、医学誌で研究内容を発表した。患者14人全員が歯周病であることが判明、病気になった動脈片から歯周病菌も見つかったという。

歯周病は歯垢(しこう)がたまって歯肉に炎症が起きる病気。症状がひどくなると歯槽(そう)骨と呼ぶ歯を支える骨が溶けていき、歯を失うことになる。

国民病のひとつ
日本人の場合、40歳を過ぎるとおよそ8割が歯周病にかかっているとも言われており、いわば国民病の1つ。単なる口の中の問題でなく、生活習慣病や血管系の病気と深くかかわりのあることが最近わかりつつある。

岡山大は、コレステロールと歯周病との因果関係を動物実験で調べた。高脂血症の原因となるコレステロールを過剰に取ると、歯と歯茎のすき間に細菌が入るのを邪魔する細胞の機能が変化し、細菌が入りやすくなることが判明した。

歯周病治療で糖尿病が改善するとも言われている。歯周病菌が血液中に流れ込むといくつもの生理活性物質が作り出される。食事後などに上昇する血糖値を下げる反応を、この活性物質が阻害する。歯科用抗菌薬で歯周病による炎症を抑えると、血中の生理活性物質濃度が下がり、血糖値も安定するという人での研究データもある。

東京医科歯科大の石川烈教授は「歯周病は糖尿病のほかにも血管系の心臓病や、脳血管疾患などと関連があるようだ。歯周病の予防・治療で、こうした生活習慣病にかかるリスクも減る」と語る。

歯周病にかからないようにするにはどうするか。歯ブラシを基本とした口腔ケアが欠かせない。

「食後の歯磨きは、どちらかといえば虫歯対策。歯周病予防となると、就寝前を忘れずに最優先してほしい」。こうアドバイスするのは東京歯科大の角田正健教授。寝ている間は、どうしても口の中で唾液(だえき)が出づらく、細菌が繁殖しやすい。食後、どんなに口の中をきれいにしたとしても、寝る寸前の口の中を最善の状態にしておくことが大切だ。


歯石除去も必要
奥歯や歯の裏側はどうしても磨き残しが出る。歯並びにも個人差があり、磨き方にもクセがある。歯の汚れだけを赤色に染める液が市販されている。どの部分に磨き残しが出るのか、どのような磨き方をすれば効率よく歯垢を落とせるか、この染め出し液でチェックするのもよい。1本1本歯をチェックし、染まった面積が2割以下におさまるようにするのが、歯周病にならないためのブラッシング目標となる。

歯と歯茎にできたすきま(歯周ポケット)に歯垢がたまっていくと、いずれ歯石ができる。こうなると家庭の歯ブラシだけでは太刀打ちできない。歯科医による歯石除去が必要となる。

歯周病菌は、複数の細菌が塊状になって存在することで感染力を増すようになると言われている。塊ができるまで3−4カ月かかる。「家庭の歯磨きで歯垢を完全除去するのは難しい。月1回、歯科医で磨ききれない歯垢を取ってもらうと歯周病予防の効果は絶大」と茂木信道歯科医院(神奈川県藤沢市)の茂木信道院長は話す。(矢野寿彦)


歯周病は生活習慣病と密接な関係がある

直接的な原因
・歯垢(プラーク)
間接的な要因
・喫煙
・ストレス
・不規則な生活
・不適切な歯磨き
生活習慣病を悪化させる
・糖尿病
・脳血管疾患
・心循環器疾患

歯周病予防の歯みがきのコツ
・寝る前を特に入念に
・歯ブラシは柔らかい毛のものを選ぶ
・「歯と歯の間」「歯と歯茎の境目」を優しく丁寧に
・奥歯や歯の裏側にみがき残しが出る
・自分のブラッシングのクセを知る

 


2005.11.27 日本経済新聞