肩や首筋がこり、腰が痛む――。こんなつらい症状が続く人は、自分の姿勢を一度点検してみるといいかもしれない。姿勢が悪いと背骨がゆがみ、慢性の肩こりや腰痛を招く。脚を組んだり、ひじをついて寝転がりながらテレビを見たりすることで、背骨に負担をかけることになる。実は記者(36)も最近、腰がだるくて仕方ないのだが…。
東京・渋谷にあるカイロプラクティック院を訪ねた。元早稲田大学非常勤講師の甲木寿人院長の手ほどきを受けながら、背骨をチェックしてみた。腰を落とした状態でいすに座り、両手の指先でへその裏あたりの背骨に触れ、上から下へとなで下ろす。ごつごつした感触が、指先に伝わってきた。背骨が両側の筋肉より高くなっていた。
「脚を組む人に多いタイプの『腰猫背』ですね」と甲木院長に指摘された。そういえば、仕事中はもちろん、自宅のソファでくつろぐときも、脚を組むことが多い。このとき、腰のあたりが丸くなりがちで、本来はおなかの側に向かってゆるやかに湾曲しているはずの骨が、反対に背中の側に湾曲しているという。
脚を組む人に多い症状は、腰痛、肩こり。また、「便秘と下痢をくり返すようになる」(甲木院長)という。記者の場合、背骨を伸ばすと背骨の部分はへこみ、上下にすっとなで下ろせるようになった。腰猫背がまだそれほど進行していないからだ。「脚を組むのはやめよう」と痛感した。
猫背には、肩口に近い部分の背骨が丸くなるタイプや、背中の真ん中あたりが丸いタイプもある。また、背骨が前後でなく左右どとらかに曲がっている「脊柱(せきちゅう)側わん」という状態の人もいる。
悪い姿勢を続けていると、筋肉のつくバランスが崩れていき、床と垂直で前後に緩やかなS字カーブを描くはずの背骨がじわじわとゆがんでくる。どのタイプのゆがみにも共通するのが腰痛。神経痛や胸焼け、下腹痛などが現れることにもなる。
日常生活でどんな姿勢を続けていると背骨がゆがんでくるのだろうか。脚を組むのは絶対にやめなければならない。高枕で足元のテレビを見るのも避けたい。パソコンを使う時は目線が下になるノート型パソコンだと背中が丸くなりがちなので、画面が目の高さに近い位置にくるデスクトップ型のほうがよい。
女性だと、ハイヒールを履くときにも注意がいる。バランスを取るため、歩くときおなかを突き出すようになりがちだからだ。また、背骨を左右にゆがませないためには、横座りをする、片方のひじを床について横になるといった癖を直そう。
猫背を解消するには、腰を反らせる体操が効果的だ。例えば両足を肩幅ぐらいに開き、腰の後ろで片手でもう一方の手首を握り、静かに腰を反らせるなどの方法がある。長時間、デスクに向かっている場合など、「疲れたな」と思ったら一息入れて腰を伸ばす習慣をつければ筋肉に悪い癖がつきにくくなる。ただ、痛みがあるときは、無理に体操せずに専門医らに相談したほうがいい。
最近、姿勢についてうるさく言う人が減ってきた。こうしたなか、正しい姿勢を教える専門家を育てる試みが始まった。
都内のビルの一室。約20人の男女が、猫背を直す体操を学ぶ。腕を曲げた状態で両手のひじを肩と水平な位置まで上げ、両ひじを後ろに引き、大胸筋を引き伸ばす。この状態であごを上げ、背中を反らしていく。
日本ウエルネス協会などが共催する日本初の「姿勢教育塾」の一コマ。7月から11月まで開催された。修了者は「姿勢教育指導士」となり、一般の人たちに正しい姿勢を取ることの大切さや、悪い癖を直す方法などを伝授する。
姿勢に興味のある人に徹底的に学んでもらい、他の人にも指導できるようにするのが狙い。修了生の一人は「将来、できれば健康教室を開きたい」と意気込む。来年1月からは2期目の講座が始まる。
「子どものころから正しい姿勢を知ることが大切。教育関係者にも参加してほしい」(同塾事務局)と言う。
(奥野由美子)
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