体の深部温 うまく調節
寝具の温度も大切

今年の冬はことのほか寒い。特に夜はしんしんと寒さが身にしみる。早く眠りたいのに、足が氷のように冷たくなって眠れないといった声が、年齢を問わず多くの女性から聞こえてくる。不快な冷えを解消し、心地よく眠りにつくコツを探ってみた。

「冬は特に足が冷えて眠るのに1時間はかかる」と話すのは東京都武蔵野市在住の主婦(54)。風呂上がりに靴下をはき、足の裏に使い捨てカイロを張るが、眠る頃には冷えきっている。寝つきが悪く、冷え性気味だからとあきらめ顔だ。

【眠り促す体温の放出】
そもそも眠りに落ちる時、体はどんな状態になるのだろう。精神科医で、国立精神・神経センター精神保健研究所(東京都小平市)精神生理部長の内山真さんは、体の深部の温度を下げて体や脳を休ませるのが眠りだと説明する。個人差はあるが、午後の安静時の深部温度は約37.5度。それが眠りに入る時には36.5度前後に下がる。

眠くなると手足がぽうっと温かくなるのは、深部温度を下げるため末端の血管を広げて血流を良くし、熱を出しているから。けれど冬は床や寝具の冷たさに自律神経が反応する。体温を逃がすまいと手足の血管を収縮させるので放熱が妨げられ、深部温度が下がらず眠れないわけだ。

【体を温めるなら全身浴】
北里研究所東洋医学総合研究所(東京・港)の伊藤剛・漢方診療部副部長は「体が冷えやすい人は深部温度を上げ、それをうまく保ちつつ床につくとよい」と説く。具体的方法としては全身浴が最も効果的。冬場は40−43度の熱めの湯を浴槽に張り、ゆっくりと浸る。体が温まるまで長くても10分間をめどに肩までしっかりつかる。

風呂から出たら足の水分をタオルで素早くふき取り、さっと靴下をはく。パジャマを着て靴下に手を伸ばすのでは遅い。素足で冷たい床に立つと熱があっという間に奪われ、それを食い止めようと足が血管を収縮させてしまうからだ。靴下は綿よりも湿度を放出しやすいウールがよい。

【眠りのリズムを重視するなら足浴を】

一方、入眠障害気味の人で眠りのリズムを重視するなら「足浴がいい」と内山さん。体は眠る2、3時間前から体温を徐々に下げて準備を始める。部屋の温度を適度に保ち、40度程度のぬるま湯に足を浸す。リラックス効果も期待でき、足の放熱も促せるという。

全身浴や足浴で、うまく手足の放熱がはじまりかけたとしても、ひんやりした布団に触れると血管は収縮しがち。対策としては靴下をはいて寝たり電気毛布で布団を温めるとよい。「ただし使い方が大切」と、独立行政法人産業技術総合研究所・人間福祉医工学研究部門(つくば市)の都築和代さんは指摘する。電気毛布のスイッチは眠る時には切る。眠って2−3時間後、眠りが深まるのに伴い汗をかいて、かえって冷えて目覚めてしまうかもしれないからだ。

【冷えてしまった足には足指ストレッチとツボ押し】

一度冷えきって血流が悪くなった足の血管を再び広げるのは至難の業。北里研究所の伊藤先生は足指のストレッチとふくらはぎのつぼ押しを教えてくれた。

足の親指以外の指先全体を手で覆い、足の裏の方にぐっと折り曲げてしばらく止める。今度はその指先を足の甲にくっつけるように反らせてまた静止する。これを何回か繰り返すと、足先の毛細血管に血液が巡り始める。

次はツボ押し。くるぶしの内側に手の親指、外側に人さし指を添え、くるぶしからひざに向けて挟み押していく。ふくらはぎの内側の真ん中あたりで急に痛くなる場所が「筑賓(ちくひん)」という。ぎゅうっと親指で長めに押して離すことを繰り返すとじんわりと足が温まり、深部の放熱を促してくれる。

冷えは体質や生活習慣にも深く関わる。医師が口をそろえたのは運動不足と食生活の乱れ。適度な運動と食生活に気を配ろう。また薄着は禁物。下着をつけ、首や足周辺を覆うことも大切だ。



足が冷えてしまったらこんなツボ押しを

(1)ふくらはぎの内側、まん中あたりの「筑賓(ちくひん)」というツボをぐーっと押しては離す このあたりにある押していくと急にひどく痛くなる場所
(2)手のひらを使って足の指を裏の方にぐっと折りこむように曲げてしばらく静止
(3)こんどは足の指を甲の方に反らす


2006.1.7 日本経済新聞