「初潮年齢が早い」「閉経年齢が遅い」「初産年齢が遅い」「出産回数が少ない」などの女性は、そうでない女性に比べると相対的に乳がんになりやすい。女性ホルモン(主に、エストロゲン)の状態が乳がんリスクに関連するからだ。
多くの部位のがんは、高齢になるほど発生率が高くなるが、日本人女性の乳がんは、閉経年齢あたりでエストロゲンレベルが下がることによって、一度、低下する傾向がある。しかし、閉経後に再び、徐々にではあるが、発生率は高くなる。
閉経後に発生する乳がんは、肥満とのかかわりが認められる。閉経期に卵巣からのエストロゲン分泌が低下してくると、体内に蓄えられた脂肪組織がエストロゲンの主な供給源となる。脂肪の多い肥満女性はエストロゲンレベルが高く、乳がんリスクも高くなると考えられている。
乳がんは米国や欧州に多くアジアで少ない典型的な欧米型のがんだった。ところが日本でも栄養状態が改善し、欧米的な生活スタイルが定着した。初潮年齢の若年化、出産の高齢化、出産数の低下などによって、乳がんの発生率は増加傾向にあるものと説明できる。
乳がんの予防法として、エストロゲンの働きを阻害するようなホルモン療法が期待できる。母親や姉妹が乳がんであるなど、あらかじめリスクが高いとわかっている米国女性1万3千人を対象に、乳がんのホルモン治療薬であるタモキシフェンを予防投与する臨床試験が行なわれた。
タモキシフェンを投与されたグループでは、プラセボ(偽薬)グループよりも、乳がん発生が69人少なかった。しかし、一方で子宮体がん発生が29人多かった。
治療の場合には、乳がんの治療と子宮体がんのリスクを比較し、治療を優先するという決定ができる。予防の場合には、乳がんのリスクを抑えることと、新たに発生する子宮体がんリスクのどちらかを選べなくてはならない。そのような高度な決定のためには、十分に、納得できる判断材料が必要になる。
(国立がんセンター予防研究部長 津金 昌一郎)
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