年間3000千人に上るぜんそくによる死者をなくそうと、患者主体の取り組みが広がっている。「吸入ステロイド」で気道の慢性炎症による発作を予防する治療法が中心だが、普及が遅れている。カギは患者の自己管理。患者参加で診療ガイドラインを作成したり、「熟練患者がアドバイスするなど「ぜんそく死ゼロ」を目指す。
5、6年前からせきが続く山本薫子さん(仮名、30)は先月12日、都内で開かれた「環境汚染等から呼吸器病患者を守る会」(エパレク、東京・港)と、「日本アレルギー友の会」(東京・江東)の合同相談会に参加。最近ぜんそくと診断され、「処方された吸入ステロイドに不安があったため」(山本さん)だ。
「熟練患者」が助言
相談会は専門医や薬剤師のほか、「熟練患者」という治療歴が長い患者も同席。半蔵門病院(東京・千代田)副院長でエパレク副理事長の灰田美知子医師は「吸入ステロイドは内服タイプの約10分の1の量で効果がある。不安がらずに使ってほしい」と説明。患者歴18年の熟練患者、田中照子さん(69)も「日誌をつけるなど自己管理の徹底が大事」と助言した。
エパレクは昨年から熟練患者の認定を始めた。薬の種類や使い方、アレルギーの原因など、ぜんそくの自己管理に関する基本的な知識を問う。
昨年は田中さんを含め計18人が合格。毎月第2土曜日に開く勉強会では、診断されて間もない患者に日常の注意点などを伝授している。
厚生労働省の人口動態統計によると、2004年にぜんそくで死亡したのは10年前の半数以下で3,283人で減少傾向にある。ただ国際指針では、日本は人口10万人当りの死者数が8.7人で、カナダ(1.6人)スウェーデン(2.0人)、オーストラリア(3.8人)など他の先進国より高い。
「軽症」「中等症」と診断された患者が発作を起こし、病院に向かう途中などで急死するケースが増えているという。だがぜんそく治療に取り組む宮川医院(岐阜市)の宮川武彦院長は「軽症で突然死することはまずない。重症度を見誤っていたのではないか」とみる。「突然死した患者は、自分の状態をあまり悪く思っていない人や、指示された治療を守らない人、発作止めの吸入器を使い過ぎる人が多い」と指摘する。
ぜんそく患者は全国で約400万人とされ、専門医と認定医は計約3000人。1日70人の患者を診ている灰田副理事長は「外来では十分程度の診察時間しかなく、生活の指導が満足にできない」と嘆く。
指針作りにも参加
患者が参加して、分かりやすい診療ガイドラインを作る取り組みもある。
アレルギーの子どもを支える全国ネット「アラジーポット」(東京・目黒)の栗山真理子さんらは、診療ガイドラインを患者向けに分かりやすくまとめた。従来のガイドラインには難解な医学用語が多く、患者向けとは言い難かった。栗山さんらは平易な言葉で解説、イラストや表もふんだんに使用した。
三つ折りのパンフレット「入園・入学マニュアル」は学校生活での注意事項や発作防止の工夫を図解入りで紹介。「教室では、黒板の前の席や暖房機の吹き出し口のそばに座らない」、「体育では、運動前に吸入したうえ、準備体操をして、せきが出たら休んで水を飲み、腹式呼吸をする」など紹介、栗山さんは「先生など周囲の人にぜんそくを理解してもらうことで、患者が自己管理しやすくなる」と訴える。
こうしたガイドラインやパンフはアラジーポット(http://www.allergypot.net)や日本アレルギー協会(http://jaanet.org)のホームページから入手できる。
吸入ステロイド 普及なお不十分
「吸入ステロイドの普及の遅れが、ぜんそく死が多い一因」と昭和大の足立満教授は指摘する。同教授らが2000年にぜんそく患者に対して吸入ステロイドの使用率を調べたところ、成人で12%、小児は5%と、欧州(成人22%、小児23%)より低かった。「現在は20%ぐらいまで上がっているはずだが、なお不十分だ」
こうした中、厚生労働省は4月から「ぜんそく死ゼロ」と銘打った総合対策に乗り出す。15の都道府県で2年間のモデル事業を実施、外出先で発作を起こした時に役立つカードを作る。患者の氏名、住所のほか、かかりつけ病院名や治療内容、合併症、使ってはいけない薬剤名など、緊急時の治療に必要な情報を記入し、救命につなげる。携帯することで患者に自己管理を意識してもらう狙いもある。同省は5年間をかけて全国でこうした体制を整える方針だ。
(前村聡、高岡憲人)
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