「急に何も興味を持たなくなった」「夜中に目が覚めてため息をついている」――。あなたの家族にこんな症状はないだろうか。もしかするとそれは「うつ病」の症状かもしれない。厚生労働省が2004年にまとめた対策マニュアルによれば15人に1人が経験しているこの病気。家族が兆候を見抜き、どう対応すればよいか探った。 |
イラストレーターの細川貂々さんの夫は2年ほど前、突然うつ病になった。起床直後に死をほのめかしたことをきっかけに、彼女が内科医師に相談をすすめ、うつ病がわかった。「弱さを認めない頑固な人だったので『なぜこの人が』と最初は思った」と話す。症状が落ち着いた今年3月「ツレがうつになりまして。」というエッセーをまとめた。
最近の研究によると、うつ病はセロトニンという脳内物質が、ストレスを受けて正常に働かなくなることで発病するとの説が有力だ。発病のきっかけは、生活や仕事上で直面した大きな変化が多い。長年、会社員の診察をしてきた初台関谷クリニックの関谷透院長は「変化が激しい現代では、程度の差はあれ、誰もが経験してもおかしくない病気」と断言する。
本人に自覚がなくても、周りの人がうつ病に気付くための着目点は存在する(表参照)。横浜労災病院の江花昭一内科部長は「体調・行動が急激に変化する。それを見逃さないように」と話す。
中でも不眠など睡眠障害や食欲異常が2週間以上続くようなら注意が必要だ。具体的には、起床直後に頭が重そうで気だるそうに見えたり、就寝時になかなか寝付かないなど睡眠パターンが崩れることが目安になる。午前3時ごろに目が覚め、そのまま眠れないといった症状もありがちだ。食欲異常としては急に食が細くなる、味覚異常を起こす、食べものが飲み込めなくなるなどの症状が表れやすい。
うつ病になると「急に世の中への興味が薄れる」(特定非営利法人、うつコミュニティーを主宰する上野怜さん)様子がはた目にもわかるもの。新聞を読まない、好きだった音楽やスポーツに関心を示さなくなるなどの状態に気付いたら、うつ病を疑っていい。食事メニューが決められなくなる、物事の優先順位がつけられないなど、仕事や私生活で極端に判断力が低下することもある。女性は化粧や服装など外見に気を配らなくなることもある。
最近は、精神的症状より身体的不調が目立つ「仮面うつ病」の人も多い。一見、健康そうに働いているが、肩こりや腰痛、過敏性腸症候群などを発症して内科や整形外科、マッサージに通い詰め、年中体調不良を訴える人に仮面うつの可能性がある。江花医師は「不調を繰り返し訴える家族がいるなら、心療内科を紹介してもらって一度連れて行くといい」と話す。
うつ病が疑われる場合、相談できる医療機関は、大学病院だけではない。街中にも心療内科や精神科を掲げる医院が増えている。通院先を選ぶポイントは通いやすさが第一。うつ病になった人は外出自体がおっくうだからだ。うつコミュニティーの上野怜さんは「最初に予約するときに、話を十分に聞いてくれる医師かどうか確認しておきたい」とアドバイスする。
通院が始まったら、家族の見守りが大切。時間はかかるが「投薬と思考方法の見直しで、必ず楽になるときがくる」(上野さん)。家族は通院と服薬を確認する。本人の話を聞くことは大切だが、後ろ向きな思考は軽く受け止めよう。イラストレーターの細川さんは「うつ患者が1人いると部屋の中はどんよりしてくる。なるべくひっぱられないように前向きな思考を心がけた」と振り返る。
折りしも今月、国会で自殺対策基本法が成立。江花医師は「自殺者の6−7割はうつ病だった疑いがある」と指摘する。周囲が異常に気付くことが、うつ病を無理なく解消することにつながる。
<きっかけとして考えられる出来事>
・人事異動/昇進/定年 ・転勤 ・転職 ・仕事上の失敗や降格 ・リストラ
・引越し
・出産
・結婚
(注)良い変化も悪い変化も対応が苦手な人には同程度のストレスになる |
<こんな状態に要注意>
うつ病になる可能性
@熟睡できない/早朝に目が覚める(睡眠障害)
A食欲不振(食が細くなるなど)
B起床直後にだるさが残るようにみえる
C何となく気が晴れないと訴える
D頭痛、腰痛など身体面の不調が2週間以上継続し、内科を受診しても異常がみられない
すでにうつ病かも
E物事への興味が減退する(ニュースを見ない、趣味をやめる、好きだったものを急に無視する)
F感情が不安定で突然泣き出したりする
G仕事や生活行動でケアレスミスが急に増える
H起床直後に「死にたい」などと言う
Iアルコールの摂取量が急に増加する
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(注)あてはまる数が多いほどうつの可能性が高まる。横浜労災病院の江花心療内科部長の話などを基に作成 |
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