ストレスが原因の場合も

「プチ更年期なのでは」と心配する女性が増えている。テレビや雑誌で特集が組まれることも増え、体の不調に悩む女性には不安に陥る人が多い。実は本当の更年期とはメカニズムが異なるのだが、素人には見分けがつかない。それぞれの違いとは?

「月経の量が減ってきた。閉経の兆しか」とひそかに心配していた会社員のAさん(39)は最近、似た悩みをもつ同年代の女性が少なくないと知った。「体は冷えているのに顔だけほてることがある」「月経が2カ月に1度のことも」。こう話す友人だれもが言うのが「これ、プチ更年期かな」。

「プチ更年期」については、2002年ごろから雑誌やテレビで特集が組まれるようになった。更年期のように月経周期が乱れたり無月経になったりするほか、顔のほてりや疲れやすさ、うつ症状、冷えなどが20代、30代で起こることを総称する。

「たしかに『プチ更年期かもしれない』と受診する女性は増えている。だが来診者のほとんどは、本当の更年期障害ではない。「医学用語に、プチ更年期を指す言葉はない」と、産婦人科医の小田瑞恵医師(こころとからだの元気プラザ・女性のための生涯医療センターViVi所長)は言う。

本当の更年期障害とは、卵巣の機能が衰え、卵巣が分泌する女性ホルモンが減ることで起こる。女性ホルモンは健康を守る潤滑油の役割を果たす。しかし卵巣機能には寿命があり、思春期で働き始め、閉経年齢である50歳前後に役目を終える。更年期障害は閉経をはさみ45−55歳あたりに起こる人が多い。

では「プチ更年期」と呼ばれるような、更年期障害に似た症状(=更年期様の症状)がなぜ20代や30代の人に出るのか。

原因は卵巣ではなく、脳にある。ほとんどの場合、卵巣はまだ機能を果せるのだが、卵巣に女性ホルモンを出せと命令をする脳(視床下部や脳下垂体)の機能がおかしくなり、女性ホルモン分泌が乱れるのだ。

「主な原因はストレスと、ダイエットによる栄養異常や過度の運動。脳の該当部分はストレスの影響を受けやすく、他人から見ればささいな出来事でも原因になりうる」と小田医師。職場の人間関係や義父母との不仲、ペットの死、子どもの反抗期なども引き金になるうる。

更年期様の症状の出現は、まず生理不順から始まる。月経の周期は短くなり、次に周期が長くなったり短くなったりする。正常とされるのは25日から38日。

「毎月ぴったり同じ周期でなくても前後6日くらいのぶれなら異常ではない。でも無月経が3カ月続くなら婦人科を受診すべき」と小田医師は言う。

血液検査をすれば、本当の更年期かそうでないかが分かる。本当の更年期ではなく更年期様の症状であれば、女性ホルモン剤や排卵誘発剤などで治療が可能。早期であるほど早く治りやすい。

女性の体にとってより深刻なのは、40歳未満で本当の更年期を迎える「早発閉経」である場合だ。
「かつて早発閉経は非常にまれと考えられていたが、最近は珍しくないと分かってきた」と、聖マリアンナ医科大産婦人科の石塚文平教授は話す。米国の調査では40歳未満で閉経する女性は100人に1人、石塚教授による川崎市在住の女性対象の調査でも200人に1人いると分かった。

原因は完全には解明されていないが、女性ホルモン剤投与を続ければ、ホルモンのバランスは回復できる。まれだが、排卵誘発剤の投与で妊娠が可能な場合もある。「早発閉経と診断されたら、産婦人科医のなかでもホルモン分泌の専門家を訪ねてほしい」と石塚教授は言う。

早発閉経の予防はできないが、ストレスによる更年期様の症状であれば、予防策はある。情報サイト「オールアバウト」で「プチ更年期」について解説する山田恵子医師が挙げるのは「食事、リラックス、適度な運動、睡眠」の4つ。

「ビタミンEは女性ホルモン分泌を整えると考えられている。多く含む青魚やナッツ類をとろといい。代替両方では、月見草オイルやカモミールが月経にかかわる症状に効くといわれており、きになる人は試してみるといい」と山田医師。

「基本は乱れてしまった体の恒常性を取り戻すこと。決まった時間に寝起きする、食事をとる、アロマテラピーやストレッチなど自分なりにリラックスする方法を実戦してほしい」と話す。

もちろん生理不順や疲れが近頃ひどいと不安を感じる人は、早めに血液検査を受ける方がよい。


2006.10.7 日本経済新聞