運動に遊びの要素を取り入れて運動神経を鍛える「コーディネーショントレーニング」。スポーツ選手育成のために旧ドイツで開発され、国内でもスポーツ少年団や体育の授業での導入が進み、体力向上に効果を上げている。楽しみながら続けられることから、運動嫌いの中高年に適した体力向上法としても注目され始めた。
「じゃんけん、グー」。講師が手を挙げると、参加者は足を開きながら「パー」。チョキが出ると足を閉じる。動作を間違えると、思わず笑いがこぼれる――。レクリエーションのように見えるが、そうではない。「コーディネーション能力」を高めるトレーニングだ。
日本コーディネーショントレーニング協会理事長として普及に取り組んでいる順天堂大学の東根明人助教授はコーディネーショントレーニングの特徴を「ゲーム感覚で楽しみながらできること」と説明する。
コーディネーション能力とは、目や耳など五感で察知した周囲の状況を脳で判断し、次にどんな動作をしたらよいか筋肉に伝える能力のこと。具体的には@相手や物体と自分の位置関係を正確に把握する(定位)A状況変化に応じて素早く動作を切り替える(変換)BリズムC合図に合わせて素早く対応するDバランスE関節や筋肉の動きをタイミング良く同調させる(連結)F手足や用具を精密にスムーズに操作する(識別)――がある。
国内ではサッカーなどの競技の準備運動として導入されたほか、子供たちの運動神経を高めるために体育の授業に採り入れる小学校が増えている。ここへきて、中高年への普及活動が始まった。
体力の衰えた高齢者は道でつまずいた時そのまま転んだり、見通しの悪い交差点で自転車が飛び出してくると尻もちをついたりして、骨折することがある。東根助教授は「コーディネーション能力を高めておくと、とっさの危機を回避できる」と強調する。
青森県立保健大学は2005年度、青森市在住の中高年を対象に週2回開く運動教室にコーディネーショントレーニングを導入した。50%に満たなかった出席率が85%に高まった。1年以上運動したことのない40歳以上を対象としており、指導に当たった李相潤講師は「予想を上回る出席率」と驚く。
受講前と終了後で参加者の体力を測定すると、立ち幅跳びが10センチメートルほど向上、反復横跳びは5回増えた。運動能力を調べる大半の項目で大幅に良くなった。悪玉コレステロールなどの値も改善した。軽い運動に見えるが、思わず体が動くため知らないうちに筋力が向上するようだ。
順天堂大や徳島大学が磁気共鳴画像装置(MRI)で調べたところ、コーディネーショントレーニングで運動野や視覚野だけでなく、思考の中心となる前頭前野などの動きも活発になった。徳島大の荒木秀夫教授は「40代半ばから本格化する脳の衰えを遅らせるかもしれない」と期待する。
中高年向けの運動メニューづくりも始まった。小学生向けではボールを使ったり揺れる台の上でお手玉をさせたりといったメニューが中心だが、高齢者だと転んでけがをしかねない。タオルを丸めてボール代わりにするなどの工夫をしている。
運動の重要性は認識していても、単調な筋力トレーニングやウオーキングはなかなか長続きしない。昔の子供は鬼ごっこといった遊びを通じてコーディネーション能力を高めていったという。中高年の体力低下を食い止めるのも“遊び心”がカギを握るのかもしれない。
(青木慎一)
相手と動きを合わせてボールを投げて受ける
1)タオルを広げて両端を2人で持ち、その上に丸めたタオルかボールをのせる
2)広げたタオルでボールを投げて受け取る
3)慣れたら、ボールを投げ上げている間にタオルを裏返しにしてキャッチする |
手足を同時にリズムよく動かす
1)イスに座り、手を肩の高さに上げて横に広げる
2)足を開き、手を上に伸ばす
3)@とAの動作をリズムよく繰り返す
4)手の動作を前に伸ばすパターンを増やす |
タオルを棒のように扱う
1)タオルを棒のように長くして、両手で水平にくるように持つ。順手で持っていたタオルを離して逆手に持ち替える
2)タオルを縦にして左右から挟むように持ち、タイミングよく上下の手を入れ替える
3)
タオルが水平になるように持ち、手をクロスさせて持ち替える
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