庭を彩るバラ、クレマチス、ゼラニウム、ペチュニア。高温多湿の日本では外国産の園芸品種は病気や害に侵されやすい。どうしても農薬に頼らざるを得ないが、使い方を誤ると健康被害を招くことになる。これからガーデニングに絶好の季節だが、使用時は注意事項をきちんと守り、マスクなどをして散布することが大切だ。
春から増える患者
「毎年春から夏にかけてガーデニングによる農薬中毒とみられる患者が急増する」。青山内科小児科医院(前橋市)の青山美子院長はこう話す。この季節はアブラムシなど様々な外注が発生するだけでなく、バラなどは黒点病やウドンコ病などの病気にかかる。家庭でも大量の殺虫剤や殺菌剤、除草剤などを散布する。
家庭用の農薬で多く使われるのが有機リン化合物。安価で効き目が強い。だが最近は慢性毒性が指摘されており、海外では使用が禁止されている国も多い。
有機リン農薬中毒の主な症状は頭痛や肩こり、めまい、倦怠(けんたい)感など。吸った直後に症状が出るとは限らず、1−2日してから発症することも少なくない。誰もが疲れや風邪が原因だと考えてしまう。青山院長は「気付かずに農薬吸入を繰り返して慢性中毒になっている人は多い」と警告する。
厚生労働省の研究班(主任研究者・石川哲北里大学名誉教授)は2005年3月、農薬に使う有機リン化合物は神経や免疫、内分泌にも障害をもたらし、特に小児の吸入は将来に重大な問題を引き起こす可能性があると結論付けた。
人体が化学物質を取り込むのは約8割が肺からで、食物からは1割に満たないとの研究結果もある。散布の仕方を誤れば有機リン化合物がそのまま肺から吸収され、中毒になる恐れがある。
健康被害はなにも使用者にとどまらない。埼玉県内の新興住宅地に住む10代の女性は2005年、引越し早々、めまいや頭痛、吐き気などの症状に見舞われた。道を挟んだ家がフェンスにからませたつるバラに散布した有機リン系農薬が原因だった。この女性は1カ月で家を離れざるを得なかったという。
社団法人、緑の安全推進協議会の千野義彦農薬安全相談室長は家庭での使用にあたり具体的な注意点を挙げる。まずラベル記載されている注意事項をよく読み守ること。吸入を防ぐため散布の際には農業用のマスクをする。マスクをしない場合に比べ吸入量は9割減る。また皮膚の露出した部分から吸収されることもあるため、長袖長ズボンを着て作業し、できれば散布後は体も洗う。
もうひとつ重要なことは周囲への飛散に十分気を使うことだ。戸建て住宅だけでなく、ベランダ園芸でも周囲の住戸に農薬が飛び散る。有機リン化合物は子どもの精神・神経機能に悪影響を及ぼすと指摘されている。また化学物質化敏症の患者などは、低濃度でも激しい症状に悩まされる。
千野室長は「近隣の家の窓が開いていたり、洗濯物が干してあるときは散布しない。風邪のある時も避けるべき」と強調する。
農家に比べずさん
農家が野菜などに農薬が残留しないよう細心の注意を払うのに比べ、自治体による散布や家庭での使用はずさんになりがちだ。農林水産省の指導も農家が対象で、家庭園芸に関してはほとんど口を出さない。
こうした現状を憂慮した環境省は今年1月、市街地などで農薬を散布する際には適正に使用するよう異例の通知を出した。自治体に対しては、定期的に散布するのではなく、病害虫の発生に応じて最小限にとどめるよう要請。農薬が広がらないよう散布方式を工夫することや、子供がいる学校周辺や公園での散布にあたっては一般の人が現場に立ち入らないよう、特に注意するよう求めた。家庭での農薬使用も同様の配慮が求められる。
農薬を使わずにガーデニングを楽しむことは難しい。土づくりなどを工夫して使用量を最小限に抑える努力をし、散布の際には細心の注意を払うようにしたい。
(古谷茂久)
ガーデニングをする人で5つ以上該当すれば、農薬中毒の恐れがある
|
□ 頭痛や片頭痛 |
□ 眠れない、夜中に目が覚める |
□ 体がだるく何もやる気がしない |
□ 目まい、立ちくらみ |
□ ぼやけて見える。視力が落ちた |
□ 胸が痛い。動悸(どうき)がする |
□ イライラする。キレやすい |
□ 仕事や家事が進まない |
□ 指先が震える |
□ 風邪の症状が続く |
(青山美子院長による)
|
|