職場のストレス解消に
仕事ミス6−7割減
「悪い筋肉」ほぐし心を安定


気がふさいで何事もやる気がなくなる。暴飲暴食をする。部下をどなりちらす――。職場でのストレスがたまると様々な形で行動に異常があらわれる。社員のうつ病などの精神疾患も急増、休職やミスの増加など事業に悪影響を及ぼすケースも出てきた。ちょっとしたストレッチなどの自己管理(セルフコントロール)を工夫し、自律神経のバランスを整えると、ストレスはかなり解消できるという。

携帯使い運動指示
ある大手医療関連会社の全社員は毎朝、携帯電話を使って心の状態をチェックする。「落ち着いているか」「イライラしているか」「活気にあふれているか」など8つの質問項目に答えて回答を送ると、ホストコンピューターが各社員の朝の心の状態を分析。心の「安定度」と「活性度」の点数として送り返す。

点数が悪く問題がありそうな場合、ホストコンピューターはその社員に対して筋弛緩(しかん)法やストレッチなど、自律神経のバランスを整える簡単な運動をするよう指示を出す。各社員が事務職か身体を動かす職場かなどによって指示内容は異なり、最適のリラックス法が選ばれる仕組みだ。この携帯電話を使った健康管理システムの導入で、この会社では仕事上のミスが6割−7割減り、職場の事故も半減したという。

同システムを提供しているメンタルヘルスコンサルティングのアイエムエフ(東京・渋谷、榎本三千雄社長)の大塚博巳代表は「社員の健康維持のためには、心の自己管理が重要。当初はミスの許されない医療機関の利用が多かったが、最近は一般企業での導入が増えている」と話す。

心身の自己管理としては具体的に何をしたら良いか。筑波大学人間総合科学研究科の坂入洋右准教授は「サラリーマンに合った簡単な手法としては、ストレッチなどの軽い運動だ」と指摘する。
座禅の世界では「調身・調息・調心」というように身を整えて呼吸を整えれば心にも良い影響が及ぶ。短時間で簡単に効果を得るためには、まず体の緊張を引き起こしている「悪い筋肉」をほぐして、心を良い状態に切り替える方法が効果的という。

張り切り過ぎずに
悪い筋肉の代表が、肩こりにかかわる僧帽(そうぼう)筋や、みけんの筋肉など。筑波大学の坂入、征矢英昭、木塚朝博の三准教授らの研究グループは、こうした筋肉をほぐす簡単な手法の開発を進めている。

そのひとつが、肩の筋肉の緊張をほぐすストレッチ。座ったまま右手でいすの坐面をしたから押さえ、左手を左耳にあてて頭と左手の両方で互いに強く押し合う。右手でも同じ動きをすることで僧帽筋はかなりほぐれる。

両肩を持ち上げて力を込め、一気に脱力するという動きを何回か繰り返すことでも肩の筋肉をほぐすことができる。人間は筋肉の力を入れることは簡単にできるが、意識して力を抜くのは難しい。一度力を入れて脱力するという動きで、比較的容易に力をぬくことができるという。

前かがみになって両手を左右にゆっくりと振る動きも良い。また朝起きたときには、頭に血をめぐらせるために腰を折って前かがみになるストレッチが有効だ。

こうした運動をするとき、はじめから心を落ち着けようとして張り切ってはいけない。落ち着こうとがんばることでますます体が興奮・緊張し、かえって心も緊張する悪循環に陥る。「まず体をゆるめ、そこから心の緊張を解く」(坂入准教授)。一月ほど続けるとセルフコントロールの手法が身に付く。

自律神経のバランスを整える本格的な手法としては、古くから知られる自律訓練法がある。心身を良い状態に切り替えるための自己治療法で、あおむけになったり座ったりしてゆったりした気持ちを保ちながら、両腕両脚が「重い」「温かい」などの身体感覚に注意を集中して筋肉をゆるめていく。交感神経から副交感神経への切り替えができるようになるという。

ただ、自律訓練法は専門家による指導とトレーニングが必要。日本自律訓練学会が認定士や専門指導士の資格を設けており、こうしたプロのいる病院や施設で訓練を受けるとよい。
(古谷茂久)

2007.6.24 日本経済新聞