「腸年齢」という言葉を耳にしたことがあるだろうか。年齢によって変化する大腸菌の細菌バランスをチェックすることで、本当の老化の度合いや生活習慣病へのかかりやすさの目安にするものだ。食生活の偏りやストレスの高まりから細菌バランスを崩し、実際の年齢よりも腸年齢が高い人が増えているという。 腸内の健康状態示す 「百種類、百兆個もの細菌がいる大腸内の細菌バランスと老化の間には密接な関係がある」と光岡知足・東大名誉教授は語る。 生後5日目ぐらいの赤ちゃんの腸内は、ビフィズス菌など腸内をきれいに保つ“善玉菌”でいっぱいだ。 離乳期になり大人と同じ食事を取り始めると、バクテロイデスなどの中立的な嫌気性菌が全体の9割を占めるまでに増殖し、善玉は1割程度に急減する。その後、成年期を通じて、両者の勢力分布にそれほど大きな変化は見られない。 ところが老年期にさしかかる55〜60歳を境に善玉菌が減り、それまで少なかったウェルシュ菌、大腸菌など“悪玉菌”が増え始める。老年期では3割程度の人からビフィズス菌がなくなり、8割程度の人がウェルシュ菌を保有する。便秘しがちになる結果、腸内が腐敗し、悪玉菌が発がん物質など様々な有害物質を生産しやすい。大便やおならが臭くなるのも特徴だ。 腸年齢とはこのように年とともに変化する腸内細菌の勢力分布をとらえている。厳密にどの細菌バランスなら何歳というふうには言えないが、悪玉菌が多い腸は肉体の老化を早めたり、病気の引き金になるので、腸内環境のチェックが欠かせないわけだ。
健康な人なら実年齢と腸年齢に大きな差はないが、理化学研究所・微生物系統保存施設の辨野義己室長によると、「最近は10代や20代の若者でも、腸年齢が老人化している人が目立つ」。若い女性で腸内細菌の状態を調べたところ、60代といってもおかしくない人もいたという。
それでは、腸年齢の上昇に何も手を打てないかというと、そうではない。生活全般を見直し、腸年齢を上げている要因をチェックしてみよう。ストレスを減らし、食生活を見直せば、“若返り”は可能だ。 食生活で効果的なのが、食物繊維を豊富に含んだ食品をとること。イモ類、豆類、穀類などが代表的だ。食物繊維は悪玉菌の活動を抑えたり、コレステロールや中性脂肪を体外に排出する。いわば、腸内を掃除する役目がある。 厚生省は食物繊維を1日20〜25グラム摂取することが望ましいとしているが、食生活の欧米化に伴い、食物繊維を食品だけで取るのは容易ではない。足りない分をサプリメントで補うのもよいだろう。ビフィズス菌入りのヨーグルトを毎日欠かさず食べて、善玉菌を増やすことも重要だ。ウォーキングなどの運動も腸の働きを高めて排便を促す。 「腸年齢を若返らせるには、少しでも早く取り組んだほうがよい」(光岡名誉教授)。腸が発する老化や変調のサインを見過ごさないことだ。(2000.5.27日本経済新聞)
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