痛みや出血でつらい痔(じ)の悩み。男性の病気と思われがちだが、実は女性にも多い。痔は便通の異常が最大の原因となる生活習慣病の側面もあるという。痔主にならないためには「快腸」生活を目指すのがいいようだ。
東京都内に住む会社員の杉田桂子さん(仮名、37)は今年5月、排便の際に肛門(こうもん)から出血するようになった。3年前から痔の自覚症状があったが痛みもないからと放置。出血するようになり、「重症なのかも」と青ざめた。
肛門科医院であるマリーゴールドクリニック(東京・港)を受診し、いぼ痔が大きくなっていたことが判明した。杉田さんが痔を患うようになったきっかけは便秘。「仕事が忙しく、便意があってもトイレに行けないこともあった」と杉田さん。必要以上にトイレでいきんでしまったことも多かったという。
肛門はお尻の皮膚のくぼみと直腸の管がつながった個所。ドッキングした部分は歯状線と呼ばれるギザギザの線になっている。また肛門と直腸の辺りは血管が複雑に交わりながら走り、特に静脈の毛細血管が発達している。肛門は構造が複雑で血流も悪くなりがちなデリケートゾーン。便通異常で肛門に負担をかけすぎた結果、痔を発症する。
痔には大きく分けて3種類ある。肛門が切れて出血、痛みを感じる「切れ痔」。肛門のうっ血が原因で毛細血管の一部に血がたまる「いぼ痔」。歯状線のくぼみに便のばい菌が入り化膿する「あな痔」だ。
ひどい便秘で硬い便を無理矢理出した結果、肛門が切れたり、いきみすぎてうっ血したり……。マリーゴールドクリニックの山口トキコ院長は「痔は便通異常がもたらす生活習慣病」と言い切る。
水分は多めに
基本的には痔になっても命に別状はない。病院で痔の治療をするかどうかの目安はあくまでもQOL(生活の質)が脅かされていると感じるかどうか。実際に手術が必要になるケースは「受診者の1−2割程度」(山口さん)だ。
社会保険中央総合病院大腸肛門病センター長の佐原力三郎さんは「症状によるが、生活習慣を改善すれば回復することも多い」と話す。それくらい、痔は日ごろの生活習慣が大切ということだ。
まずは便通対策。繊維質の多い食事を心がけ、水分も多くとること。朝は朝食をとり、便意を感じたらトイレに行けるよう、少し早めに起床しよう。ただし「出さなきゃ」と思い詰めない。いきみ過ぎや長時間トイレに座り続けるのも逆効果だ。トイレタイムは5分までと心得よう。
ストレスも大敵
運動とマッサージも便通改善に効く。マッサージはS字結腸に合わせて「の」の字にするといい。
ストレスの多い生活も痔の大敵。「笑っていると肛門もリラックスする」(山口さん)。血行不良は冷えも要注意だ。肛門はただでさえうっ血しがちな部分。夏でも腰回りはしっかり温め、入浴はシャワーではなく湯船にゆっくりつかったほうがいい。
生活習慣の改善だけでは症状の回復が期待できない場合は、手術が必要になってくる。痔の種類によってその方法は様々だ。例えばいぼ痔の場合、切除手術のほかにも、いぼに注射で薬剤を注入し固める方法などもある。入院が必要な場合があるが、日帰り手術に応じている病院もある。
都内に住む派遣社員の萩原貴子さん(同、34)は今春、2年間患っていたいぼ痔の切除手術を受けた。日帰り手術で所要時間は5分。「今はトイレが怖くなくなった。便秘にも気をつけるようになった」と笑顔をみせる。
女性にとって肛門科はやや入りづらいが、受診しやすいよう工夫した病院も増えている。市販薬を1−2週間使ってもよくならないなら専門医に診てもらおう。
たかが痔とあなどりがちだが、実は危ない。「痔と思って来院した患者さんに直腸がんなどの病気が見つかることも珍しくない」(佐原さん)という。特に40歳以上なら、肛門に異常を感じたら専門医の受診をしたほうがいいとすすめる。
「おしりの異常は生活を反省するきっかけにしてほしい」という佐原さんの言葉を肝に銘じたい。
(ライター 藤原 仁美)
■朝食をとらない
■便意を感じてもトイレに行かない(行けない)
■トイレでいきみすぎたり、長時間ねばったりする
■運動不足
■ストレスだらけ
■入浴はシャワーだけ
■頑固な便秘で下剤を常用
■下痢しやすい
■お酒、辛い食事が好き
■野菜より肉が好き(繊維質不足) |
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