余計な力かからず

正しい姿勢がすべての動作の基本だ。姿勢は座った状態から立った状態、さらに歩く状態で連携している。

電車の中で居眠りしながら座っている人の姿勢を観察すると実に様々。きちっと背筋を伸ばしている人は少なく、頭を左前か右前に垂れ、電車の振動に合わせて揺れている。足を組んでいる人もいる。いずれも少し傾いた姿勢でバランスをとっている。

人間が座る、立つ、歩く姿勢は、体の中心軸(地球の中心に向かう中心線)の上に体がまっすぐにのり、前後・左右のバランスがとれているのが理想的。しかし、長い間の生活環境が原因でいつの間にかその人独特の姿勢(体のゆがみ)を持つようになる。

このため、中高年になると肩こり、背部痛、腰痛、膝(ひざ)痛などを訴える。若いと姿勢の悪さを筋力でカバーできるが、年をとると骨が老化し筋力(特に腹筋と背筋)も衰え、血液の循環も悪くなり様々な症状がでてくる。

体がゆがんだまま、速く歩いたり、長く歩いたりするとすぐ運動障害が出てくる。エクササイズ・ウオーキングやロング・ウオーキングに挑戦する前に、普段の姿勢が正しくなるよう、すこしずつ修正しておこう。

よい姿勢を得るには、立った状態であごを軽く引き、左右の肩を結んだ線と腰の線が平行になるようにする。お腹が出っ張らずぎゅっと締めて、背中も丸くしないで背筋をまっすぐに伸ばす。頭頂が天空からひもでつるされているような感じがよい。腹筋、背筋がむらなく適切に緊張して、特定の筋肉群に余分な力がかからない。筋肉疲労がとれ、血行もよくなり、肩こりや背部痛、腰痛も改善する。

両手の指を組んで裏返し、頭の上に伸ばしてかかとを上げたまま、体全体をスーと引き上げる。体はそのままの状態で、手は左右から半円を描くように下げる。最後にかかとをゆっくりと下ろしてみよう。お腹が引き締まり、背筋が気持ちよく伸び、胸も大きく広がる。

この姿勢を保ちながら歩くと、余計の力が加わらず、速く長く歩けるようになる。
(日本ウオーキング協会副会長  泉 嗣彦)

2007.8.12 日本経済新聞