深い呼吸ポイント
内臓のマッサージ効果も



手軽なストレッチ運動で夏バテを解消――。暑さ続きでぐったりとしてくると、体を動かすことさえ面倒になりがち。だが、適度に筋肉をほぐすことで疲労感などの解消につながることもある。夏バテ対策に効果的なストレッチを専門家に教わった。

「夏場の疲れがたまってくると背中が丸まり、あごがあがるような姿勢になっている人が目立ちますね」。こう指摘するのは、埼玉県戸田市に事務局がある特定非営利法人(NPO法人)、日本ストレッチング協会理事の鈴木和孝さん。

このような姿勢だと呼吸が浅くなり、体内の酸素の循環が悪くなって全身に疲労がたまりやすくなるという。「深い呼吸をしながら、胸やあばら骨まわりの筋肉を伸ばすと夏場の疲労回復につながりやすい」と話す鈴木さん。夏バテ解消に効果的な3つのストレッチを教えてもらった。

最初は体の側面の筋肉を伸ばすストレッチ(表の1)。次に胸板の部分にある大胸筋(表の2)、もうひとつは背中の広背筋を伸ばすもの(表の3)。「伸ばしたい筋肉が心地よく伸びているのを感じたら止め、深呼吸を15−30秒程度繰り返すのがポイント」(鈴木さん)だ。

夏場の疲れで背中が丸まるような姿勢になると首周りの筋肉が緊張するようになるといい、それをほぐすストレッチも効果的。暑さで寝苦しい夜が続き睡眠不足になることもしばしばだが、呼吸を整えてリラックスすることで、眠りにもつきやすくなる。

いずれも筋肉をいためないように「無理に伸ばしたり、反動をつけたりしないのが基本」と鈴木さん。翌日に痛みが出るようなら、その日は休むなどの対応が必要だ。

呼吸器疾患の理学療法が専門の文京学院大学・保健医療技術学部の准教授、柿崎藤泰さんも「深い呼吸をすることは、酸素を多く体に取り込んで各臓器へ供給することになり、体の耐性が高まって夏バテ対策につながる」と説く。

柿崎さんがすすめるのは「呼吸筋ストレッチ」。ぜんそくなどの患者が息苦しさをやわらげるために考案された体操で、一般の人にも効果があるという。呼吸筋とは肺を取り囲み、息を吸ったり吐いたりするときに使う筋肉。このストレッチにより、深い呼吸を習慣づけられるほか「呼吸筋の下にある内臓へのマッサージ効果もあり、夏場に疲れた胃腸の調子の改善にもつながると考えられている」。

呼吸筋のストレッチは、肩の上げ下げを基本とする動き(表の4)、両手を胸の上部にあてて息を吸う筋肉(吸息筋)のストレッチ(表の5)、背伸びをしながらする息を吐く筋肉(呼息筋)のストレッチ(表の6)などがある。どれも「無理をしない範囲で5−10回繰り返し、1日3セット程度を目安にするといい」(柿崎さん)。

東洋医学の分野で「ツボストレッチ」という健康法を提案しているのは、あさいマッサージ教育研究所(神奈川県川崎市)代表の浅井隆彦さん。「1点のツボと、経絡(けいらく)と呼ぶツボの連絡路を同時に刺激することでツボ押しの効果を高める」(浅井さん)という考え方だ。

例えば、水分補給や発汗による体内の水分代謝機能を高め、疲労回復につながるという「湧泉(ゆうせん)」というツボ。足の指を曲げた時に足裏にできるくぼみの中心にある。両手の親指を足の甲側にあて、残りの指でこのツボを中心にした部分を押しながら、足首の関節を手前に曲げたり、ひざを胸に引きつけたりしてストレッチをする。

ツボが押される気持ちよさと足の筋が伸びる心地よさを同時に感じることができ、押すツボの位置が多少ずれていたとしても「ある程度の効果を得ることができる」(浅井さん)という。


夏バテ解消に効果的なストレッチ

1.体の側面を伸ばす
1)左腕を上に伸ばしたまま上半身を右に倒す
2)体の左側の筋肉が心地よく伸びたら止める=写真
3)その状態で15〜30秒間、深呼吸を繰り返す
4)反対側も同様の動きでストレッチ

2.胸板の筋肉を伸ばす
1)正座をして、体の後ろで両手を組む
2)背中の肩甲骨を寄せながら胸の筋肉を伸ばす=写真
3)心地よく伸びたら止め、15〜30秒間、深呼吸を繰り返す
3.背中の筋肉を伸ばす
1)正座をして、両腕を前方に出し手を組む
2)組んだ両手を前方に押し出す
3)背中を少しずつ丸めて背中の筋肉を伸ばす=写真
4)伸びたら止め、15〜30秒間、深呼吸を繰り返す
4.呼吸筋をリラックスさせる
1)手をおろして背筋を伸ばして立つ
2)鼻から息を吸い、両肩をゆっくりとあげる
3)さらに息を吸い、両肩を開くように後ろに回していく
4)息を吸いきった後に口から息をゆっくりと吐き、力を抜いて肩を下ろしていく
5.息を吸う筋肉を伸ばす
1)両手を胸の上部にあて、息をゆっくりと吐く
2)息を吸いながら首を後ろに軽く倒し、胸を手で押し上げるようにする
3)息を吸いきったら、最初の姿勢に戻しながら息を吐いていく
6.息を吐く筋肉を伸ばす
1)両手を頭の後ろで組んで息を吸う
2)息を吸いきった後、息を吐きながら腕を上に伸ばして背伸びをする
3)息を吐ききった後、息を吸いながら両手を下げ、頭の後ろに戻していく

(注)いすに座った姿勢でも可。1、2、3は2〜3回を1日3セット、4、5、6は5〜10回を1日3セット程度



2007.8.18 日本経済新聞