年をとると筋力が衰え、少しの段差でもつまずき転んでしまう。寝たきり・要介護になる原因の1割が転倒・骨折。自分にあったつえを上手に活用したり、家の所々に手すりをうまく設けたりして、生活のなかにちょっとした転ばぬ知恵を取り入れてみてはどうだろうか。
京都市内に昨年オープンした「つえ屋」は、1200種類を超す品ぞろえを誇る国内でも珍しいつえの専門店。材質はアルミ、カーボン、チタン、木など様々で、持ち手のデザインや柄も多彩。年寄りくさいイメージはしない。「自分にはまだ早いと思うけれど…」とこぼしながら来店する客もいるが、「どうせ使うのなら、おしゃれなつえにしたという声は多い」と話すのは店長の坂野恭子さん。
「転ばぬ先のつえ」というように、つえは外出先での思わぬ転倒を防いでくれる。京都女子大学の山田健司准教授は「歩く時に足がうまく運べない、バランスを崩しやすい、といった人でも、つえが“第3の足”になる。衰えた筋力やバランス感覚を運動や体操で取り戻すのと同様の効果が期待できる」と解説する。
長さ・持ち方も大事
つえの長さの目安は身長の半分プラス2センチメートル。腰骨よりも握り拳1つ下になるような位置で持ち、歩く際はつま先より15−20センチメートル前方につくようにすると、転倒防止に効果的だ。
先端部のゴムに工夫を凝らし滑りにくくしたタイプや、内部にバネを組み込み接地した時の衝撃を和らげるタイプなどもある。価格や数千−数万円。百貨店、介護用品店、通信販売などで手に入る。
東京都の高齢者実態調査で、約4人に1人が過去1年間で歩行中に転倒や転落を経験していた。80代だと3割を超え、90以上だと半分近くに跳ね上がる。転んだ人の約8割がけがをしている。
こうした痛い経験をすると外出をするのが怖くなり、家の中に閉じこもりがちになる。骨粗しょう症だと転倒時の衝撃で足の付け根にある大腿(だいたい)骨頸(けい)部を骨折、寝たきりになるケースも少なくない。
転倒の原因は、足腰の衰えだけではない。加齢とともに視力が低下し、視野が狭まったりゆがんだりすると転びやすい。「老眼が進んでいる人は、家の中を歩くときでも眼鏡をかけてよく足元が見えるようにしてほしい」と山田准教授は注意を促す。自宅で電気コードが見えずひっかかって転んだ経験のある高齢者も多いという。緑内障や加齢黄斑変性症など目の病気が原因になる場合もあるので、定期的に眼科医に診てもらってアドバイスしてもらうのも転倒防止の知恵だ。
照明も転ばぬための重要なポイント。堺市在住の建築家で、特定非営利活動法人(NPO法人)シニア居住文化研究所の西尾昌浩理事は「高齢者の自宅は室内を明るくする。60歳に必要な明るさは20歳の約3倍」と言う。照明器具を明るいタイプに取り換えたり、廊下や階段に足元を照らす補助灯を設置したりするのがよいという。
暗さや人をセンサーで感知して点灯する製品もある。照明だけでなく、壁や天井をベージュや淡い黄色など明るい色に変えるのも手。最近は張るだけの簡単なタイプなど種類も豊富。ただ、「室内を白一色にすると、落ち着かないと訴えるケースもある」(西尾氏)ので気をつけたい。
手すりも効果的
廊下や洗面所、トイレなどでは手すりも効果的。いつもどこかにつかまって立ったり歩いたりする人の場合、黒ずんだところの周辺が手すりを取り付ける目安になる。玄関に靴を置くためのいすや手すりを設置しておけば、立ち上がる際に楽だ。しっかり固定できる場所を選ぼう。
床の変わり目など1センチ程度の段差解消も、厚手タイルカーペットやコルクタイルを使えば大きな工事をせずに対応できる。介護用品店やホームセンターで手に入る。2階建てに住んでいる人はできるだけ1階だけで生活する工夫をすれば、階段で転ぶ危険も減らせる」と西尾氏は助言する。
(長谷川章)
◎住宅の居室など
・階段や廊下に手すりをつける
・すべらないよに自分の足にあったルームシューズを履く
・敷居にミニスロープなどを設置する
・夜中のトイレ向けに、足元を照らす人感センサー付き照明などで段差がよくみえるようにする |
◎台所
・踏み台を使う時は安定感があり、滑りにくいものにする
・包丁や熱い鍋の取り扱いには、細心の注意を払う |
◎浴室
・浴室内を自由に歩けるように手すりを設置
・マットは洗い場全体に敷き、段差を作らないように
・いすはしっかりと安定感のあるものを使う |
◎屋外
・ちょっとした外出でも、つっかけなどではなく、歩きやすく滑らない靴を履く
・階段やエスカレーター、バスなどでは手すりにつかまる
・身体機能の低下に合わせて、つえなどを活用
・段差には注意する |
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