うがいは水道水で?

風邪予防にヨードうがい―水道水なら効果あるのに

プライマリケアの現場で、風邪予防として患者にうがいを奨励するケースは多い。院内感染の予防のため、診療時間が終わった後などに自らうがいをする人も多いのではないか。だが、ヨード液を薄めてうがいをしても、風邪の予防にはならないことが無作為割付試験で明らかになっている。 風邪予防

京大保健管理センター所長の川村孝氏らは2002年から03年の冬、全国18地域のボランティア387人を「水うがい群」「ヨードうがい群」「うがい介入なし群」の3群に割り付け、2カ月間にわたって、風邪の発症を追跡。発症の有無は、症状のグレードをスコア化することで、客観的に判断した。

結果は、うがい励行の介入をしなかった群と比較して、水うがい群で風邪の発症者が40%減少した(ハザード比0.6)のに対し、ヨードうがい群では有意な減少は見られなかった(図)。

風邪予防グラフ
使用したうがい水別にみた風邪予防効果の違い
ヨード液うがい群とうがい介入なし群との間には、発症率の有意な差は観察されなかった。一方、水うがい群はうがい介入なし群に比べ、有意に風邪の発症が減少した。(出典:Satomura K. Am J Prev
Med.2005;29:302-7)

 

そもそも、うがいという行為自体が有効なのか、以前から疑いの目が向けられていた。ウイルスは感染時、強固に細胞の受容体と結合する。そして30分程度で細胞内に侵入、増殖段階に入るため、いくら帰宅後にうがい液で粘膜表面からウイルスを洗い流したとしても、その効果は限定的だと考えられるからだ。

これについて川村氏は「ハウスダスト由来のプロテアーゼがインフルエンザウイルスの感染を促進するという報告がある(Akaike T. J Infect Dis.1994;170:1023-6.)。うがいによってウイル
スを流し去るのではなく、感染を促進するプロテアーゼを洗い流している可能性がある」と説明する。

ヨードは常在菌叢を破壊?
一方、水道水で効果がありながら、ヨード液で効果がなくなったことに対しては、ヨード液が粘膜の常在菌叢を破壊したためか、粘膜を構成する細胞が傷害され、水道水と比べて感染が成立しやすくなったのではないかと川村氏は考察している。

今回の研究は被験者に介入内容を知られてしまうため、完全に厳密な研究とまではいえない。これに対し川村氏は「被験者も私たちも、ヨードうがいが一番効くと思っていたのにそうではない結果が出たということから、思い込みによるバイアスは少ないのではないか」と話す。

うがいは歴史をたどると室町時代の文献に記述があるほど古来からの文化で、語源は長良川の「鵜飼」。日本固有の風習で米国や隣の韓国ですら行われていない。そのため、日本人はヨード液が効かないことを驚くが、外国人は水うがいに風邪の予防効果があることの方を衝撃的に受け止めるようだ。「この試験結果から、今後は、風邪予防のためにうがいをしなさいと、日本の文化として自信を持ってアドバイスすることができる」と川村氏は話している。

本特集では、広く行われているものの根拠が明確ではなかったり、有効性が疑問視されるようになった医療行為をピックアップ、再検証しました。併せて『日経メディカル』2月号もご覧下さい。

(江本 哲朗=日経メディカル)


2008.2.20 記事提供 日経メディカル