高用量のビタミンCが広範囲の化学療法薬の細胞傷害作用に干渉する可能性のあることが、前臨床試験で示された。
Zosia Chustecka
ビタミンCの高用量の補充は広範囲の化学療法薬による治療上の細胞傷害作用に干渉する可能性があることが、前臨床試験の結果で示された。この知見はマウスの培養癌細胞による研究で得られたものだが、著者らによれば、この実験の条件は体内と同じになるように設定しており、同様のメカニズムが患者の転帰に影響を与える可能性がある。
「ビタミンCの補充によって、一般的に用いられている化学療法薬の効果が変わり、治療転帰が有害に影響される可能性がある」と研究グループが『Cancer Research』10月1日号に記している。
指導著者でスローン・ケタリング記念癌センター(ニューヨーク州ニューヨーク)のMark Heaney, MD, PhDがMedscape Oncologyの語ったところによると、博士は自分の癌患者に対して化学療法の間はビタミンCの補充は避けるようにと指導している。「私は、ビタミンCに富むフルーツや野菜を入れたバランスのいい食事を摂りつづけるように勧めている。」
「そうした食事には、他の重要栄養素と同じように、ビタミンCも適量が含まれていると考えられる。フルーツや野菜から摂取したビタミンCがサプリメントによるビタミンCとは本質的に異なっているというようなデータはない。今回の我々の研究は実験モデル系で行ったもので臨床試験ではないので、ビタミンCの1回の補充が我々の仕事に外挿できるとはあまり思いたくない。とは言うものの、1カ月間でのビタミンCの経口補充用量が250 mgという少ない量であっても、正常白血球の細胞内ビタミンC濃度が変化し、今回我々が実験した白血球腫瘍での濃度に近い値になった。」
細胞傷害性の効果の減少
Heaney博士らは、ビタミンCが体内でとる形態のデヒドロアスコルビン酸で前処置すると、ドキソルビシン、シスプラチン、ビンクリスチン、メトトレキサート、イマチニブというお互いに近縁でない5種類の化学療法薬の細胞傷害性が用量依存性に減弱することを見いだした。
培養細胞実験では、薬剤によって細胞傷害性が30%から70%減少した。動物実験でも同様の効果が見られ、マウスに移植した癌細胞をドキソルビシンで抑制する場合、ビタミンCで前処置すると増殖速度が速くなった。
「この実験でのマウスの腫瘍中に測定されたビタミンC濃度は、ヒトがビタミンCを経口補充したときに起こりうる白血球内濃度に同程度であった。このことから、我々の実験条件は臨床での条件に類似していると言える」と研究グループは記している。
多様な化学療法薬が影響を受ける
「ビタミンCがこのように広範囲の抗新生物薬の細胞傷害作用に拮抗的に働くという今回の知見は予想外だった」と研究者らは述べている。
Heaney博士らの説明によると、強力な抗酸化物質であるビタミンCが、シスプラチンやドキソルビシンのように活性酸素を利用するタイプの抗新生物薬の細胞傷害作用に対して拮抗することは当初から予想されていた。
しかし、その他のタイプの化学療法薬の細胞傷害作用も損なわれるという結果から、別のメカニズムの関与が考えられる。この作用には、ミトコンドリア膜の脱分極が関与していると研究グループは考えている。化学療法薬は、高度に標的化した製剤であるイマチニブも含めて、すべてこの経路を通じて作用するとされている。これまでの研究と今回の結果の一部により、ビタミンCがミトコンドリアを安定化することが示されている。それによってビタミンCは、化学療法薬の細胞傷害作用の1つに拮抗する。
癌患者の多くがビタミンCを摂っている
「今回の研究はあくまでも、化学療法を受けている時にビタミンCを摂取するという状況のみを扱った前臨床モデルである」とHeaney博士は強調する。博士によれば、今までのところこのテーマに関する臨床試験はひとつも行われていない。
しかし、「癌患者も含めた多くの者がビタミンCサプリメントを使用しているために」、今回の知見は大きな懸念につながる可能性がある、とHeaney博士は指摘している。進行癌の患者を対象にしたビタミンC補充に関する臨床試験の結果は、ばらばらである。博士によれば相反する学説もある。ビタミンCの補充は癌を保護するという説もあり、それは患者にとって好ましくない。しかし反対の意見もあり、ビタミンC補充は免疫系を強化したり、おとなしい癌がより攻撃的に変異するのを防いだりするというものもある。それによれば患者にとって便益となる。
米国癌学会の内科担当副会長であるLen Lichtenfeld, MACPが今回の研究に関するコメントとして次のように述べている。「ビタミンCは癌の予防と治療において長い歴史がある。ビタミンCが癌患者の転帰を改善させるということを示したエビデンスは存在しないが、癌患者はビタミンCの便益の可能性を信じ続けるという報告もある。腫瘍医は癌患者に過剰量のビタミンCを摂取することを定型的に勧めたりはしないが、癌患者は別の臨床医からビタミンC治療を受けていることが報告されている。」
「最近、ビタミンCの静注には動物実験で癌の増殖速度を減らすという便益があるらしいとする論文がいくつか出されている。癌を治療している患者に対してこうした治療手法が有用かどうかを確認するヒト臨床試験が現在進行中である」ともLichtenfeld博士は言った。
しかし、今回の報告は、動物実験においてビタミンCを癌細胞に与えると、化学療法薬の効果が弱まる可能性のあることを示していると博士は指摘する。
「癌の治療を行っている患者にとってビタミンC補充は有用なのか有害なのかという疑問が未解決で残されているのは明らかだ。そうした疑問が今後の臨床試験で解決するまでは、患者が癌だった場合に大量のビタミンCを摂取することを勧めるのは不適切だろう」とLichtenfeld博士はMedscape Oncologyに語った。
開示情報によれば、この研究には関連する金銭的利害関係はない。
Cancer Res. 2008;68:8031-8038.
Medscape Medical News 2008. (C) 2008 Medscape
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