痔(じ)――。場所が場所だけに、だれにも相談できずに苦しんでいる人は多いはず。実は日本人の3人に1人が患っていると言われるほどの“国民病”だ。とはいえ、手術が必要なケースは一部に過ぎない。痔を持ちながらでも、日ごろの心がけ次第で普通の生活を送れる例が大半だ。


生活習慣を見直して
トイレ短く、ゆっくり入浴

痔核(じかく)=通称いぼ痔、裂肛(れっこう)=切れ痔、痔瘻(じろう)=あな痔。
痔といっても様々だが、代表的な痔はこの3つ。中でもいぼ痔は男女とも症状の過半数を占めると見られている。肛門(こうもん)内で便やガスの漏れを抑えるクッション状の部分が大きくなったり肛門の外に出てくる症状をいう。

痔はどうしてできるのか。社会保険中央総合病院で大腸肛門病センター長を務める岩垂純一副院長は「痔は生活習慣病。最大の原因は、一に便秘や下痢などの便通異常、二に正しくない排便習慣によるもの」と話す。

忙しいからと何度も便意を我慢していると便意が起きなくなり、便秘になる。大腸から降りてきた便が直腸にたまって固くなり肛門を傷付けやすくなるが、無理に便を出そうといきむと、強い腹圧がかかって肛門にさらに大きな負担をかける。下痢も、柔らかいとはいえ勢いは強い。その結果、いぼ痔や切れ痔につながる。

トイレに雑誌などを持ち込んで長時間粘るのも一因となる。肛門がうっ血し、痔を悪化させる。また「排便後、紙で強くこするのは便をシワにすり込むようなもの」(岩垂副院長)。
さらに、平田肛門科医院の平田雅彦院長は「肉体的疲れや精神的ストレス、体の冷え、飲酒なども痔の原因」と付け加える。デスクワークで長時間同じ姿勢でいるのも肛門への負担が増し、痔になりやすい。

いぼ痔には薬で治るもの(血栓性外痔核)もあるが、基本的には取り除かない限り、なくならない。しかし軽いものは手術しなくても、正しい排便習慣で悪化は防げる。

こんな人は要注意

1
排便時に出血がある
2
排便後、便を出し切っていない感じがある
3
肛門周囲を触るとイボのようなものがある
4
排便時に強くいきむ
5
排便に時間がかかる
6
便秘がち
7
肛門に何か挟まっているような違和感がある
8
1日中同一の姿勢をとっていることが多い
9
出産経験がある
10
食物繊維をあまりとっていない
あてはまる項目が多いほど、痔核(いぼ痔)のリスクが高い※岩垂純一著「もう痔で悩まない、かくさない」(木馬書館)を基に作成

第一の原則は、便意が起きたらすぐにトイレに行くことだ。朝は余裕を持って起床、きちんと朝食をとり、規則的な生活で便意を催すようにするのが理想だ。起きてすぐに冷水か牛乳を飲むといい。

肛門の負担を減らすため「トイレは3分で切り上げる」ことも心がけよう。いぼ痔が膨らんでいるのを、まだ便が残っていると勘違いしていきんでしまうケースもある。排便は思い切りが肝心だ。
入浴は痔の最善の予防・治療法。清潔を保ち、うっ血を予防する効果がある。ぬるめのお湯にゆっくり入るのがコツだ。排便の度に入浴できれば理想だが、洋式便座に洗面器を置いてお湯を張り、座欲をしてもいい。

温水洗浄便座も効果的。5千円程度で購入できる携帯肛門洗浄器も外出時に便利だ。洗った後は必ずタオルを押し当てるようにしてふき、よく乾燥させるといい。

排便後の「肛門体操」も有効だ。肛門を2、3回締めたり緩めたりすることで、肛門の外に押し出された粘膜が元の位置に戻り、痔の予防にもつながる。

排便習慣とともに、便秘を防ぐ食習慣も考えたい。高たんぱく、高脂肪の食事を控え、食物繊維の多い食事を取ることが大切だ。

日本人の食物繊維摂取量は1日あたり15グラム程度と言われるが、平田院長は「1日21−25グラムの摂取がメド」という。豆類や海草に多い食物繊維は便を増やし、便が腸の中にとどまる時間を短くする。ひじきや納豆などが並ぶ和食は痔に理想的だ。ヨーグルトも、便秘の改善につながるビフィズス菌など良性の腸内細菌を増やす。

「痔は基本的には良性疾患。最終的に手術するか否かを決めるのは患者」(岩垂副院長)だが、素人判断は禁物だ。変だと思ったら悩まず専門医の診察と指導を受けよう。痔だと思って市販の薬を使っていたら、実は大腸がんだったというケースもありうるからだ。

(2001.4.21 日本経済新聞)