「デブは病気がち」の真偽を検証する
「メタボリックシンドローム」という言葉が一般的になる以前から、誰しもが、何となく「肥満」に悪いイメージを持っています。「太りすぎは健康に良くない」とか、言葉は悪いですが「デブは早死にする」とか。かつてダイエット(減量)は、「美容」を目的に行われていましたが、今や「健康維持」のためにダイエットする時代になっているように思います。
メタボリックシンドロームという病気(?)についてウンヌンするつもりはありませんが、肥満になると病気になりやすいというウワサが本当なのかどうかは、気になるところです。そこで今回は、肥満の有無と医療機関の受診状況の関係について調べてみました。
調べたのは、いつものように、当社が健康保険組合から委託されて管理しているレセプトデータです。ただ、今回の検証には肥満かどうか、つまり身長と体重の情報も必要になります。当社は一部の健保組合から、健康診断の結果も預かっていますので、ここから身長や体重のデータを抽出することとしました。ということで、今回の調査は、2007年分の健康診断の結果が分かる40歳から59歳の男女、3万1552人を対象としました。
もう一つ、どこからを肥満とするかも問題です。肥満の基準には色々あるようで、世界的にはBMI(body mass index:体重[kg]÷身長[m]÷身長[m])が30を超えると肥満なのだそうですが、そこまで太った人は、海外で目にすることはあっても、日本ではまれだと思います。日本肥満学会ではBMIが25以上を肥満としているようなので、ここではBMI 25以上を「肥満」としました。
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表1 今回の調査対象者の内訳 |
表1は、今回の3万人超の対象者を、性別、年代、BMI分類(肥満かどうか)で分けたものです。
こうして分類してみると、男性だと30%前後が、女性だと15〜20%が「肥満」だということが分かります。
肥満(BMI 25以上)群の平均BMIは27〜28で、非肥満群との差はBMIで5程度でした。表には示しませんが、肥満群の人たちがBMIで25を切る(=肥満を解消する)ためには何kgの減量が必要かを算出したところ、平均で14〜18kgになりました。
では、まず肥満の有無と受療動向の関係を見てみましょう。
今回調べた3万人超の対象者は、先ほども書いたように当社が健診データを把握している人ですので、彼らが2007年の1年間に医療機関を受診しているとは限りません。そこで肥満者と非肥満者に分けて、医療機関を受診したか否かを調べたのが、表2の「受療率」の数字です。2007年に医療機関を受診した割合ということになります。
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表2 性別・年代別の受療率、年間医療費、1日当たり医療費(2007年分) |
対象は「2007年に健康診断を受けていた人」。年に一度でも医療機関を受診する人は、性別や年代を問わず7〜8割ほどであることが分かる。
これを見ると、肥満の人の方が概ね受療率が高いことが分かります。特に差が顕著なのは50歳代男性です。
でも、なぜか40歳代の女性では、非肥満群の方が受療率が高いという逆転現象が起こっています。つまり、少なくとも40歳代の女性では、太っている人の方が病院にかかる率が(若干ですが)低いということになります。
でも、これを受療日数や、かかった医療費で見てみると、また話が違ってきます。受療率で見ると逆転していた40歳代女性も、1人当たりの受療日数は肥満者の方が1.3倍高く、年間医療費に至っては1.6倍です。受療率の微々たる差は消し飛んでしまいます。肥満者の方が受療日数や年間医療費が高いのは、すべての性別・年代で共通した傾向でした。
年間医療費と受療日数は相関関係にありますが、加えて肥満者では、1日当たり医療費も高くなっていました。これは受療理由になった「疾患の種類」によるのではないかと考えられます。例えば、非肥満者が医者に行くのはかぜの時くらいだが、肥満者の多くは高血圧で定期通院しているとすれば、1日当たりの医療費は、処方される薬の薬剤料だけでも大きな差になることが予想されます。
ということで、次に疾患別に受療率を調べて、受療率のオッズ比を計算してみました。
例えば、40歳代男性(n=10640)でいうと、肥満群(n=3616)で高血圧で医療機関を受診しているのは755人ですから、受療率は16.1%になります。対して、非肥満群(n=7024)ですと、高血圧での受診は569人なので受療率は5.8%。オッズ比を計算すると3.1です。40歳代男性では、肥満のある人の方が、高血圧での受療率が3.1倍高いわけです。
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表3 生活習慣病4疾患の性別・年代別オッズ比 |
大きな文字サイズで書いてある数字が肥満者の受療率オッズ比。その下の小さな文字サイズの数字は、「肥満者の受療率 vs 非肥満者の受療率」を示す。
4種類の生活習慣病について、同様の計算をしたのが表3です。大きな文字サイズで書いてある数字がオッズ比で、その下のvsを挟んだ2つのパーセンテージが、オッズ比算出の元になった肥満群と非肥満群のそれぞれの受療率です。
いずれの疾患でも、すべての群で、同等を示す「1」を大きく上回っています。やはり「デブは生活習慣病になりやすい」のは間違いありません。
ただ少し面白いのは、40歳代と50歳代を比べると、総じて50歳代の方がオッズ比が低いことです。受療率の%に関しては、肥満・非肥満を問わず50歳代の方が高めであることを考え合わせると、40歳代→50歳代と年齢が高まることで、生活習慣病の発症に対する「肥満」の寄与度が下がるのではないかと考えられます。
この考察から教訓を得るとすれば、太り気味の人が生活習慣病の予防のためにダイエットをするのであれば、50歳になる前に(40歳代のうちに)実行しておくべき――ということになるでしょうか。
最後に、40歳代男性でオッズ比が高かった疾患をランキングしてみました。先に上げた4つの生活習慣病のほか、脂肪肝、狭心症、痛風・高尿酸血症あたりが上位にランクしているのは理解できますし、腰痛症や逆流性食道炎くらいまでは、まあ、そうかとな、とは思います。
でも、オッズ比はさほど高くないとはいえ、うつ病や不眠症、足白癬となってくると、よく理解できません。しかも、急性気管支炎、インフルエンザ、咽頭炎、かぜといった比較的身近な病気も、肥満者に多い傾向にあるようです。アレルギー性鼻炎もそうです。そういえば、太っている人がマスクしている姿をよく見かけるような気も…。
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表4 40歳代男性で肥満者の受療率オッズ比が1を超えていた疾患 |
肥満者の受療者数が100人以上いた疾患のみを対象とした。
結論。「デブは病気がち」は、やっぱり本当でした。
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