食物負荷試験に初のガイドライン登場
食物アレルギーを診断したり、原因食物の除去を解除するためには、食物経口負荷試験の実施が欠かせない。しかし、現在は限られた医療機関が独自の方法で負荷試験を行っているのが実情だ。小児アレルギー学会は、2009年4月、負荷試験の方法や実施体制の原則を示したガイドラインを発表する。
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わが国における食物アレルギーの有病率は、乳幼児で推定5〜10%程度。ただし、多くのケースでは学童期ごろまでに原因食物への耐性を獲得するため、学童以降の有病率は減少し、1〜2%程度と考えられている。食物アレルギーの原因食物は、新生児から2、3歳までは卵や牛乳、小麦が多く、学童以降、成人などでは甲殻類、そばなどが増える傾向にある。
食物アレルギーの原因食物を同定する方法には、食物経口負荷試験や食物除去試験、血液中の原因食物に対するIgE抗体を測定する抗原特異的IgE抗体検査、好塩基球ヒスタミン遊離試験、皮膚プリックテストなどがあるが、最も信頼できるのが、疑われる原因食物を食べて症状が出るかどうかを判定する負荷試験だ。
食物アレルギーの患者数は多く、複数の原因食物にアレルギーを持つ多種抗原陽性患者や重症難治患者も増えていることから、負荷試験のニーズは高い。例えば、乳幼児期にアトピー性皮膚炎があり、疑われる原因食物に対する特異的IgE抗体検査が陽性であった食物について、離乳期以降も除去を続けているような症例は少なくない。このような症例では1、2歳で負荷試験を実施して食物アレルギーの確定診断を下すとともに、栄養の偏りを防ぐためにできる限り除去を解除することが求められている。
しかし、実際は「1、2歳で負荷試験を受けている症例は少なく、確定診断を受けないまま除去を続けている症例が多い」と、あいち小児保健医療総合センターアレルギー科医長の伊藤浩明氏は話す。その背景には、多種抗原陽性患者や重症難治患者が増えていること、一般の小児科では医師数や病床数が限られているといった事情がある。
専門医の3分の1は負荷試験を実施せず
一方、負荷試験を巡る状況は、ここ数年で変化しつつある。06年度、入院での負荷試験に保険点数(1000点)が付き、08年度には外来での負荷試験でも保険請求が認められるようになった。ある小児アレルギーの専門医は「これまでコストを度外視して、再診料だけで実施していたので、保険点数が付いて多少楽になった」と話す。保険点数が付いたことで、「負荷試験を実施する医療機関も増えているようだ」と、藤田保健衛生大小児科の宇理須厚雄氏は言う。
ただし、ひとくちに負荷試験といっても、医師によってその実施方法にはばらつきがある。日本小児アレルギー学会が、小児アレルギー専門医480人を対象に負荷試験の実施状況について調査を行ったところ、およそ3分の1の医師が負荷試験そのものを実施していないという現状が明らかになった。また、28%の医師が原因食物を単日単回摂取させる方法を実施していた(図1)。
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図1 小児アレルギー専門医の負荷試験の実施方法と実施件数 日本小児アレルギー学会が小児アレルギー専門医480人を対象に調査を実施。06年度に1件以上単日複数回投与の負荷試験を行った専門医の割合は47.8%だった。1件以上単日単回投与を行った専門医の割合は28.4%だった。34.4%の専門医は負荷試験を実施していなかった。 |
単日単回の摂取とは、到底症状が出ないと思われる微量の原因食物を含む食品を試しに摂取させて、「ここまでは食べられる」と確認し、診療の度に量を少しずつ増やしていく方法だ。「この方法は、単に除去を続けるのに比べ、『少なくともここまでは食べられる』という量を示せる点で優れた診療方法ではあるが、食物アレルギーかどうかを診断できるわけではないため、本来負荷試験には当たらない」(伊藤氏)。
食物アレルギーの診療方法が医師により大きく異なることや、「ガイドラインを作成してほしい」という小児アレルギー専門医の声を受け、日本小児アレルギー学会は08年、食物アレルギー委員会の中に食物経口負荷試験標準化ワーキンググループ(委員長は宇理須氏)を立ち上げた。同グループが作成した『食物アレルギー経口負荷試験ガイドライン2009』は、09年4月17日から奈良県で開催される第112回日本小児科学会学術集会で販売される予定だ。
ガイドラインでは、負荷試験を「一定の時間間隔で漸増法により数回に分割摂取させて、症状の出現を観察する検査」と定義。食物アレルギーの診療に慣れた医師が、入院設備の整備された、または緊急入院の受け入れ先を確保した医療機関で行うこと、正確に症状が判定できるように抗ヒスタミン薬などの薬物治療を中断して行うこと、などを原則とし、「安全性と確実性を重視したガイドラインを作成した」(伊藤氏)。
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図2 負荷試験の原則(ガイドラインを参考に編集部で作成) 「食物アレルギー経口負荷試験ガイドライン2009」で示される負荷試験の原則。卵での負荷試験を行う場合は、固ゆで卵が推奨されている。 |
また、入院での負荷試験を行う場合のスケジュールや、外来での負荷試験を行う場合のスケジュール、同意書のサンプルなどを掲載し、「具体例を盛り込んで、使いやすくしたことが特徴だ」(宇理須氏)という。保険点数が付き、ガイドラインが整備されることで、医師にとっては従来よりも負荷試験を実施しやすい環境が整いそうだ。
とはいえ、これで国内での負荷試験の裾野が広がり、実施件数が一気に増えると考えるのは早計だ。というのも、このガイドラインはあくまで食物アレルギーの診療経験を10年以上要する専門医が、これまでの負荷試験の方法を見直すために作られたもので、これまで負荷試験を行っていなかった医師に負荷試験の方法を周知するのが目的ではないからだ。
宇理須氏は、「専門医が少ない東北や北海道などで、これまでより積極的に負荷試験を行う専門医が出てきて、地域の医療機関と病診連携することを期待している」と話す。
関係者が思い描くのは、全国の各地域に専門医を擁し、負荷試験の中核となる医療機関が存在し、病診連携で一帯の負荷試験のニーズに応える――という将来像だ。
久保田 文
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