うつ病:その不調、うつ病かも? 不眠、気力減退…2週間続けば受診を
◇投薬治療と休息で回復/職場も研修、相談態勢整備を
就職や転勤など、新年度がスタートする4月は環境変化の多い時期だ。普段以上のストレスがかかるこの時期は、うつ病など精神的な変調を訴える人も増える。心の健康を保つには、本人の心構えばかりでなく、周囲の正しい理解が必要だ。【渋江千春】
「仕事内容が今までとまったく違う。嫌と言ったら辞めろと言われそうで言えないが、会社に行くのが嫌で嫌でたまらない」(50代男性)
新年度に入ると、ストレスでこんな悩みを打ち明ける患者が、大阪府茨木市の「渡辺クリニック」には頻繁に訪れるようになる。院長の渡辺洋一郎さんは大阪府の精神科診療所でつくる「大阪精神科診療所協会」の会長として、企業や市民にうつ病への理解を深める運動を続けている。
悩みの多くは▽寝つきが悪くなった▽睡眠の途中で目が覚める▽体がだるい▽食欲がない▽動悸(どうき)や息切れが起こる▽物事がおっくうになる▽自信がなくなる--など。
しかし、渡辺さんは「環境が変わると、ストレスを感じるのは誰でも同じ。このレベルなら、環境に慣れる過程で治まる。心配ない」という。注意が必要なのは、今まで好きだったことに興味がなくなるような状態が2週間以上続いた場合で、うつ病を疑った方がいいという。
■周囲も声かけて
ところが、うつ病の症状は、疲れた時や落ち込んだ時と同じため、本人も「病気」とは気づきにくい。厚生労働省研究班が中国・九州地方で02年度に行った調査では、うつ病経験のある人のうち、医療機関を受診したと回答したのは4分の1にとどまった。周りが変調に気づき、受診をすすめる態勢も必要だ。
いつもと違う様子が気づきのチャンスで、具体的には、▽遅刻が多くなった▽声が小さくなる▽表情に活気がなくなる▽ミスが増えた--などがある。「転勤の場合は、前の部署に普段の様子がどんな状況だったのか確認する。新入社員には本人に『どうかしたのか』と声をかけることも重要」という。
うつ病については「気の持ちよう」「根性がないから甘えている」などの誤解が根強い。しかし、うつ病は、神経伝達物質の働きが悪くなり脳の機能が阻害されておこる精神疾患のため、投薬治療が有効だ。そして睡眠をしっかりとり、休息することが何よりも重要だという。
■自分の性格分析
治療が必要な状態にならないためには、どのようなことを心がければいいのか。
「まずは、あせらないこと」と渡辺さん。「人間は慣れていく能力を持っている。0か100かで考えず、できることからやっていくうちに、徐々にできるようになる」
自分の性格を知り、「不安な気持ち」が、どういう状況で出るのかを把握することも役立つ。人前で話せなくなるなら、誰の前で話すことが不安につながるのか、どんな内容を話す時に不安に思うかを分析する。そして、不安につながっている原因を確かめる。上司など、自分を評価する人の前で話すことが苦手なら、「1回失敗しただけで全部評価されるわけではない」と考えるようにすることで、不安な気持ちがやわらげられる。
職場を挙げての対策も必要だ。管理職や従業員に研修を行い理解を促す▽恒常的な相談場所を設ける--などだ。上司は、行動の裏にある背景を理解する姿勢を持つことが重要だという。心の健康を損なっていることが問題と結びついている可能性もあるからだ。
特に日本の企業で遅れているのが個人の適性の把握だ。「短距離走の選手でもマラソンは走れない。やればできるという精神論だけではだめで、適性を考えた管理が必要」と渡辺さんは指摘する。
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■うつ病を疑うチェック項目
<自分で気づく変化>
・よく眠れず、目が覚めても頭がはっきりしない。
・疲れやすく食欲がなく、体の調子がなんとなく悪い。
・気力がなく、何をするにもおっくうに感じる。何をしても楽しくなく、生きていく自信がない。
・いつもできることができず、ふがいない。
・考えがまとまらず、堂々巡りして判断がつきにくい。
<周囲が気づく変化>
・遅刻や早退が多くなる。
・しばしば休んだり、突然休む。
・同僚などと話し合うのを嫌がり、付き合いを避ける。
・表情が乏しい。口数が減り、行動に生気がなくなる。
・自信がなくなり、取り越し苦労をしたり、自分の能力の低下を訴える。
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