更年期のホルモン補充療法 効果と注意点は。 医療ナビ
◆更年期のホルモン補充療法 効果と注意点は。
◇ほてり・不眠など改善、持病で受けられない人も 定期的検査、欠かさずに
日本産科婦人科学会(日産婦)と日本更年期医学会は、更年期障害の治療法の一つ、ホルモン補充療法(HRT)の診療指針(ガイドライン)を作成した。この療法が「がんの発生率を高める」との研究結果が関係者に動揺を与えた経緯があるため、効用だけでなく、治療を受けてはいけない禁忌(タブー)症例や慎重に対処すべき場合も明記した。
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神奈川県鎌倉市の主婦(49)は45歳ごろから、徐々に起床時間が早まる不眠症状に悩まされた。検査した結果、ホルモン量が減っていると分かり、主治医から低用量の女性ホルモン(エストロゲン)などの投与を提案された。
それ以来、ゆっくり起床できるようになり、体調も好転。ガサガサだった足の裏もつるつるになった。現在もHRTを続けているが「こんなに体調が違うなんて」と女性は話す。
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HRTは、閉経期の女性に欠乏するエストロゲンの錠剤を飲んだり、皮膚に塗るなどして補う治療法。「のぼせ」「イライラ」「疲れやすい」などの更年期障害の症状改善に有効として70年代以降、急速に広まった。ウィミンズ・ウェルネス銀座クリニック(東京都中央区)の対馬ルリ子院長は「上手に使えばメリットは大きい」と話す。
だがHRTの評価を一変させたのが、米国で02年に公表された大規模臨床試験の結果だ。HRTは乳がんの発症率や心臓血管障害、脳卒中などのリスクを高めるとの内容。日本更年期医学会理事長で弘前大の水沼英樹教授は「副作用の発生を必要以上に恐れ、HRTを本当に必要とする症例にも使用を避けるなどの弊害が出た」と指摘する。
その後、試験対象は高齢者や肥満など、健康リスクが高い人が多く含まれることが分かり、専門家から疑問の声が上がった。さらにエストロゲンの種類や投与方法で効果や副作用が異なることや、閉経直後からHRTを始めた症例では心疾患のリスクは低下し、死亡率も低いこと、HRTを終えれば乳がんのリスクは消滅することなども分かってきた。
こうした再評価の流れを受け、日産婦と更年期医学会は2年前から合同で指針づくりを進めてきた。
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指針はHRTの作用・効用として、更年期障害の典型的な症例である▽ほてり、不眠、記憶力低下などの緩和▽抑うつ症状の改善--などを挙げた。一方、禁忌症例として重度の肝疾患▽現在の乳がんとその既往者などを示し、慎重投与例として60歳以上で新たに治療を始める人や肥満の人などを挙げている。
徳島大の苛原(いらはら)稔教授はHRTのリスクを「塩分の多いスナック菓子や喫煙が健康に与える影響より、ずっと小さい」と指摘する。その上で医療関係者や患者に「HRTは生活の質を高める安全な選択肢になりうる。指針を積極的に活用して」と呼びかける。
NPO法人「メノポーズを考える会」(東京都新宿区、メノポーズは更年期の意味)の三羽良枝理事長は「HRTは閉経後も女性が長く生きる時代の治療法。正確な知識を持って選んで」と話す。電話相談は毎週火・木曜日の午前10時半-午後4時半。専用電話電話03・3351・8001。【江口一】
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■更年期症状へのHRTの有効性(A・極めて高い B・高い C・ある)
・血管運動神経症状 A
・抑うつ症状 B
・不眠など C
・アルツハイマー病の予防 C
・萎縮(いしゅく)性膣(ちつ)炎、性交痛の治療 A
・骨粗しょう症予防 A
・骨粗しょう症治療 A
・脂質異常症の治療 B
・動脈硬化症の予防 C
・皮膚萎縮の予防 B
■HRTの禁忌症例
・重度の肝疾患
・乳がんとその既往者
・子宮体がん、低悪性度子宮内膜間質肉腫
・原因不明の不正性器出血
・妊娠が疑われる場合
・急性血栓性静脈炎または血栓塞栓(そくせん)症とその既往者
・冠動脈疾患既往者
・脳卒中既往者
■HRT投与前・中・後の管理法
投与前…血圧・身長・体重の測定、血液検査、婦人科がん検診、乳房検査
投与中…問診を毎回行い、投与前の検査を年1-2回繰り返す
投与中止後…5年までは、1-2年ごとの婦人科がん検診と乳がん検診を推奨
※ホルモン補充療法ガイドラインより作成
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