女性の抜け毛 原因多様

                   
周期要因 病気や減量など影響
環境要因 乾燥ケア間違い多く


 空気が乾燥する冬場は、抜け毛や頭皮の荒れが気になる季節でもある。こうした不健康な状態を放置しておくと、頭皮の炎症や深刻な脱毛などにつながりかねない。また女性の脱毛には思わぬ病気が潜んでいることもある。適切な髪と頭皮のケア手法を探った。

 「髪が薄くなった」「抜け毛が多い」――。髪の悩みを抱える女性は多い。秋冬になると抜け毛が増えるように感じ、皮膚科を訪れる女性も目立つという。

1日200本で注意
 順天堂東京江東高齢者医療センターの植木理恵・先任准教授(皮膚科)は「1日に100本くらいの抜け毛は正常の範囲内」と指摘する。その上で「1カ月ほど様子を見て、1日の抜け毛が200本くらいあれば異常の可能性があるので皮膚科に相談を」と話す。「例えば円形脱毛症の場合、正常な毛は毛先から根元までほとんど太さが変わらないが、異常な抜け毛は根元が細くなっている」
 女性に異常な脱毛が起きる時の原因は様々だが、大別して男性ホルモンの影響によるものと髪の成長周期が関係するもの、環境的な要因の3通りが考えられる。

 まずは男性ホルモンの影響。東京医科大学の坪井良治教授(皮膚科)によると「女性の持つ男性ホルモンが何らかの要因で頭頂部で反応してしまうことがある」という。「男性型」と呼ばれる脱毛症は、頭頂部の広い範囲が薄くなっていくのが特徴だ。
 病気や生活習慣の変化などの要因で、髪の成長周期が乱れて起きる脱毛は「休止期脱毛」と呼ばれている。髪の毛は成長期、退行期と段階を経て、最後に休止期になると抜けていく。休止期の毛髪が通常以上に増えるのが休止期脱毛だ。
 典型的なのが出産後3カ月ほどで抜け毛が増えるケース。妊娠中に抜けなかった毛がまとめて抜けてしまう現象で、しばらくすると目立たなくなるという。

甲状腺異常も
 休止期脱毛の中でも、気をつけなければならないのが生活習慣による脱毛だ。中でも最近目立つのが急激なダイエットの影響。「鉄欠乏症貧血や亜鉛欠乏症などが引き金となって抜け毛が増えることがある」(坪井教授)。睡眠不足も症状につながりやすい。
 多くはないが、深刻な病気が潜むこともある。甲状腺障害や膠原(こうげん)病などの異常が脱毛を引き起こしていることがある。こうした身体に原因のある脱毛は、まず原因の病気を治療することが必要だ。治療の進展と共に異常な脱毛も収まることが多い。

 一方、環境的要因としては冬特有の空気の乾燥がある。乾燥して頭皮のバリアー機能が低下しているところで髪のケア手法を誤り、摩擦や化粧品などによる強い刺激が加わると頭皮が傷付いて炎症を起こし、それが脱毛をもたらすことがある。
 しかし「多くの人が髪や頭皮のトラブルや手入れ方法の誤りになかなか気付かない」(ライオン・ビューティケア研究所の柏井利之・副主任研究員)。同研究所の調査では頭皮のかゆみを自覚している人は男女とも約60%だったが、実際に頭皮に炎症や角質のめくれが確認できたのは女性の75%、男性で95%で、自覚している人の割合を大きく上回っていた。

 頭皮の炎症やフケには、一般に脂漏性(しろうせい)と乾燥性の2タイプがある。脂漏性は皮脂が多いことで頭皮にマラセチアというカビの一種が増え、炎症を起こす。乾燥性は逆に洗いすぎなどによって頭皮が過度に乾燥し、角質がめくれて細かくさらさらしたフケが出る。冬に目立つのは乾燥によるトラブルだ。乾燥を防ぐには洗いすぎないこと。順天堂大の植木准教授は「乾燥肌の人は頭皮も乾燥しやすい。洗髪は1日おきにする、頭皮に保湿剤を使うなど対策を」と助言する。

湯で7割落ちる
 シャンプーやドライヤーの使い方も重要だ。簡単なようだが、「調べてみると意外に洗い残しが多かったり、髪に負担のかかる乾かし方をしたいたりする」(花王総合美容技術研究所の杉野久美・主任研究員)。杉野主任研究員に上手な洗い方、乾かし方を教えてもらった(図参照)。
 まずは洗髪。洗う前にブラシで髪のもつれを解き、地肌までしっかりぬらす。お湯だけで汚れの7割は落ちるという。シャンプーはよく泡立ててから頭皮に付け、指の腹でもむように洗う。髪はぬれているときに傷むので、絶対にこすらない。コンディショナーは「こんなにすすいでいいの?」と思うくらいしっかりすすぎ落とす。乾かすにはまずタオルで水分をたたいてふき取るのが基本だ。

たばこも影響 食事に配慮を
 髪や頭皮を守るには、食生活にも注意が必要だ。「鉄分や亜鉛、銅などのミネラル分が足りないと毛が抜けることがある」(東京医科大の坪井教授)。海藻やレバー、牡蠣(かき)、ゴマなどの食材にはこれらが豊富に含まれている。もちろん栄養の偏りがないことが一番大事。髪も体の一部と心得ることが必要だろう。
 専門家が口をそろえるのがたばこの悪影響。たばこは頭皮の血流を悪化させるからだ。血行を良くするための頭皮マッサージはほどほどに。やり過ぎは頭皮や髪を傷つけることも。
 順天堂大の植木准教授がすすめるのが蒸しタオル。洗髪前に温めたタオルを頭の上に載せておくと頭皮の血流を高め、皮脂などの汚れもよく落ちるという。

髪に負担をかけない乾かし方
1 根元の髪を起こし、方向を整えながら頭頂部から乾かしていく。乾かす順序は後ろから前。ドライヤーは髪から15センチほど離して使う。
2 長い髪は頭に巻き付けるように、襟足から毛先に手グシを通しながら風を通す。
3 頭の内側から指を入れて、円を描くように毛先に向かって指を通し、手の動きと一緒に風をあてていく。温風をあてすぎると毛髪が傷むので、最後は冷風に切り替える
(花王の杉野主任研究員の助言を基に作成)

女性の脱毛、主な原因
女性の男性型脱毛
 主に男性ホルモンの影響で、頭頂部の広い範囲で髪が細く短くなり薄くなる
病気による脱毛
 甲状腺疾患、内臓疾患、膠原病、糖尿病、高熱などの影響
生活習慣による脱毛
 鉄欠乏性貧血、亜鉛欠乏症、ダイエットに伴う栄養障害が原因で起こる
薬剤や治療に伴う脱毛
 抗がん剤、放射線などの影響
特に原因のない休止期脱毛
 ある時期に集中して髪の抜け毛が多くなり、髪の密度が低下して頭皮が透けて見えるようになる
不適切なヘアケアによる脱毛
 頭皮の皮膚炎に伴うもの、毛髪を引っ張り過ぎて抜けるケース、ドライヤーの使いすぎなど
(東京医科大の坪井教授の話を基に作成)

 

2008.11.22 記事提供 日経新聞