『旬』の野菜は栄養たっぷり

調理・保存法工夫し健康に

 1年中、栽培物などが出回り季節感が薄れてきた野菜。そうは言っても「旬」がなくなってしまったわけではない。本来の旬の時期には栄養価がもっとも高く、効率よくビタミンなどを摂取できる。価格面でも季節はずれのものよりも安くて有利だ。調理法や保存法を一工夫して、栄養分が損なわれるのを上手に防ぐ方法もある。
 
  冬の野菜といえば大根、白菜、ホウレン草、レンコンなどが代表的。以前は旬がはっきりしていたが、今ではハウス栽培や輸入品の増加により、スーパーで季節に関係なく手に入る。東京都中央卸売市場の入荷量をみても、大根では最も多い12月が少ない6月の1.7倍、ホウレン草は12月が8月の2.3倍にとどまる。市場を管理する東京都によると「以前より季節感はだいぶ薄れた」という。

季節で栄養価変動
 それでも野菜が自然の産物である限り、栄養価は季節によって変わる。女子栄養大学の辻村卓教授が首都圏の5地域で購入した約40種類の野菜の栄養価を年間を通じて調べると、どれも栄養価の高い時期と低い時期とがあった。
 栄養素の含有量の変化が特に顕著だったのがビタミンCとカロテン。ビタミンCの含有量はホウレン草で最も大きく変化した。12月に出回った品には100グラム当たり約80ミリグラムが含まれていたのに対し、最も少ない9月はその5分の1以下だった。ブロッコリーも12−2月は数値が高く、6−10月は半分−3分の2程度だった。カロテンでも、ブロッコリーは3月が8月の約4倍、トマトは7月が2月の約2倍などはっきりとした差があった。
 辻村教授は「例外はあるが、旬以外の季節に作っても栄養価は減ってしまう傾向がある」と分析する。栽培時の温度や日照、土壌などが複合的に影響し合うのではないかとみている。ただ、カリウムや鉄分などは季節的な変動はないという。
 
  特に食の細い高齢者や病気療養中の人は、栄養価の高い旬の野菜を選ぶようにするとビタミン不足などを防げる。南北に細長い日本列島では、同じ品種の野菜でも時期が少しずつずれながら次々と旬を迎える。しかも市場に出回る量が多い旬の野菜は安く買える利点もある。
栄養価の低い時期は、日本と季節が反対の南半球から輸入した旬の野菜を食べればよいという考えも成り立つ。ただ、食料を運ぶ距離や使う燃料を減らそうといフードマイレージを重視する最近の考え方にはそぐわない。

地産地消に注目
 辻村教授は「地産地消がよい。直売所などではその日に収穫した地元産の野菜が並んでいいる」と地元に目を向けることを勧める。取れたての新鮮野菜は栄養素が失われずに残っていると指摘する。やみくもに量を食べなくても十分な栄養素を得やすい。

 保存法にもコツがある。家庭用冷蔵庫で生の野菜を冷凍するとビタミンCは約1カ月でほぼ完全に失われるが、短時間湯がいてからなら約10%しか損なわれない。ビニール袋などに小分けして冷凍し、ドアをなるべく開閉しないようにすれば6−8カ月は十分にもつという。
 調理法も工夫するとよい。神戸市に住む食研究家の石井達也・裕加夫妻は「おいしい(と感じる)料理は栄養価も高いケースが多い」と話す。この季節、料理教室で教えているのが、ふろふき大根。料理本などにはたっぷりの湯でことことと煮ると書かれているが、調理後は湯を捨ててしまうことも多い
 「浅い器に昆布を敷いたうえで2センチ程度に切った大根がつかるくらいの水を入れ、電子レンジで加熱するだけでもおいしい」と石井さん。600ワットのレンジで10−12分が目安。栄養素と昆布のうまみが出た煮汁はみそ汁やスープに使うと無駄がない。
 ホウレン草は湯がき方が大切。しゃぶしゃぶの肉の要領でさっと熱湯につけるだけ。こうすれば香りや味が消えず、ビタミンCなどの栄養も逃げにくいという。ブロッコリーはつかる程度の少量の湯で湯がく。ゆですぎないことが基本だ。冬の料理といえば温野菜をたくさん食べられる鍋料理も人気だが、ここでも「ぐらぐら煮立たせない」のがコツだという。
 
  毎日何気なく食べている野菜でも選び方や調理方法を少し工夫するだけでおいしく食べられ、栄養もぐんととりやすくなる。季節を改めて気にかけ、楽しみながら旬の野菜を健康に役立ててみてはいかがだろうか。   
(長谷川章)

ひとくちガイド
《本》
◆野菜と栄養素との関係を詳しく知りたいなら
「野菜のビタミンとミネラル」(辻村卓編著、女子栄養大学出版部)
《ホームページ》
◆各地の特産野菜などは
「農山漁村文化協会 ニッポン食育ネット 故郷に残したい食材」

(http://nipponsyokuiku.net/syokuzai/)

 




2008.12.7 記事提供 日経新聞