日本の食糧自給率は年々下がる一方で、とくに穀物自給率(食用+飼料)はついに28パーセント台となりました。この主な原因がWTO(世界貿易機関)による貿易自由化によってもたらされたといえば言い過ぎでしょうか。
現在、WTOの支配は非常に強力で、経済のグローバリゼーションは自然界の生存の最大の脅威となっています。WTOのルールがきれいな空気や新鮮な水といった要素を考慮に入れていないため、地球上の森林の森林資源が犠牲になっています。また、森林だけでなく地球上の大気や気候変動、地球上の多様な生物の保全なども深く関わっています。
WTOによる国際社会からのボイコットや排斥の脅威が最終的には威力を発揮して、多くの小国が外国投資の制限と輸出入の関税障壁を撤廃しました。
農業では食料生産の多様性や地域住民に供給するための主要作物への特化が犠牲となり、大量の化学薬品や機械の投入による輸出市場向け嗜好品生産の単一栽培方式に取って代わられています。
今まで世界人口の約半分は家族と地域のために土地を耕し食料を自給してきました。しかし、ここにきて事態は急変しています。地域ごとで生産し消費することに重点をおく自給自足のシステムから、巨大なアグリ・ビジネス企業が力を握り、高度に管理化され工業化した多国籍農業システムへと移行しつつあります。
南側の世界では、多国籍企業がかつてないほど大規模に農場を経営しているため、地域住民の主食となる農産物の生産をやめて、輸出向けの嗜好品の単一栽培に切り替えています。
農業の担い手を機械や化学肥料に切り替え、農民たちを“土地なし、仕事なし”時によってはホームレスにまで追いやってしまっているのです。ご多分にもれず、日本の農業もその犠牲になっています。
一般消費者に安い食品や農産物を提供するという名目のもと、総合商社や巨大スーパーが食物の輸入量を急増させています。中国を中心とする東南アジアでは日本市場に合わせるように生産や出荷の指導まで行っています。
安全で健康によい食品や農産物といった観点はどこかに置き去りにされています。わが国の農家はますます生産意欲を失い、唯一つづいているのが大量の化学肥料や農薬を使ったおカネになる単一栽培農業です。
昨年、環境省は環境ホルモン指定品目を67品目発表しましたが、その内なんと42品目が農薬関係でした。こうした状況下、希望の光が見えるのは農業従事者の中に本来の命を大切にする農業(自然農法・有機農法)に取り組む人たちが徐々に増えてきたことです。その場合、障害になるのは生産価格と農産物の輸入問題です。
最近、中国からの輸入が増えているネギ、生シイタケ、イグサについて、政府が国内で初めて一般セーフガードの発動を決め、国内事業者の被害を防止するよう動きだしましたが、遅きに失します。
一方、アメリカや中国の灌漑農業はもう限界に来ており、水不足と塩害で砂漠化が始まっています。また農薬による地下水の汚染も深刻な問題になっています。農業に適さない土地で大量に農産物を作るようになったからです。そして、農産物は日本に流れ込み、長年の減反政策による農業の衰弱は今もつづいています。これはどう考えてもおかしな状況です。
種子ビジネスに始まり穀物・オレンジ・米と、米国を中心とする圧力によって自由化し、自前の農業を危機的な状況に追い込んできたのは政府もそうですが、安さだけを求めてきた消費者にも責任の一端はあると言わざるを得ないでしょう。
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