痛い五十肩 どうする

肩を動かす運動が最適
安静は禁物 まず「うちわあおぎ」から

 「肩が痛くて着替えにくくなった」――。五十歳前後になると、転んで手をついたなど思い当たる原因がないのに五十肩に悩まされることがある。人生五十年といわれていた江戸時代には長寿病とも呼ばれた。うちわであおぐなど肩をできるだけ動かす運動が痛みを軽くするのに役立つ。

  福岡市在住の加藤弘之さん(仮名、45)は突然、痛みで左手が上がらなくなった。痛み止めを飲んで我慢していたが、ひどくなり川浪病院(福岡市早良区)を受診した。

30代や80代でも
 加藤さんの病名は肩関節周囲炎、いわゆる五十肩だった。川浪病院の緑川孝二院長は「肩が痛いと言って外来に来る人の半分が五十肩。患者は増えている感じがする」と言う。
 五十肩は肩関節の周囲にあり骨と筋肉が擦れ合わないようにする肩峰(けんぽう)下滑液包、4つの筋肉の腱(けん)からなる腱板、関節包などの軟部組織に炎症が生じて起きるというのが通説だが原因ははっきりしない。
 聖路加国際病院整形外科の星川吉光部長は「炎症が主体というよりも、軟部組織に繊維芽細胞などが増えて組織が硬く厚くなり、そこに神経末端の枝が多数入り込むことで痛みが出やすくなっているのではないか」と推測する。
  五十歳前後の患者が最も多いことから五十肩と呼ばれるが、30代や80代でも起きる。
初期症状では、男性だと痛みで上着の脱ぎ着が大変になったり、電車のつり革を持つときに痛みが走ったりする。女性はブラジャーのホックを後ろ手でとめられなくなったり、エプロンのひもをうまく結べなくなったりする。

  痛くて動かさないでいると、次第に肩が固まってしまう肩関節拘縮に陥る。さらに進むと、肩がずきずきと痛んで夜も眠れなくなる。
 五十肩は放っておけば2年から3年で良くなるといわれるが、痛みに耐えかねて病院を受診する人がほとんどだ。リハビリで肩の痛みや動きは改善する。川浪病院で肩関節拘縮の患者にリハビリを実施したところ、約9割の患者の症状が良くなるという。
 悪化させないためには「安静は禁物」というのが多くの医師の一致した見方。星川部長は「肩に違和感や痛みを感じたら、入浴などで温めてゆっくり大きく回すことが大事」と指摘する。

病院での診断大切
 肩の痛みをやわらげるには、棘(きょく)上筋や棘下筋、肩甲骨の下の肩甲下筋など、上腕骨を覆う腱板を訓練すれば効果的。五十肩の予防も可能とされている。
 ゴムやチューブを引いて腱板を鍛えることができる。訓練用チューブはスポーツ用品店でも購入できるが、輪ゴムをつないで約1メートルのゴム跳びひもを3本作り、最大3本まとめて使えばよい。
 また、緑川院長は「とりあえず、うちわであおぐことが大事」とアドバイスする。うちわは手首しか使っていないようだが、毎日1分でも自分をあおぐなどすると、硬くなった腱板をやわらげることにつながるという。

 中高年の肩の痛みには、腱板の周辺に石灰物が沈着して急に激しく見舞われる石灰沈着性腱板炎のほか、腱板が断裂しているケースもある。勝手に五十肩と思いこむのでなく、病院で的確な診断を受けることも大切だ。            
(編集委員 西山彰彦)

腱板の訓練
@外旋運動(肩を外側に回す運動)
ゴムバンドの端をドアのノブなどにひっかけ、ひじを脇につけて直角に曲げ、手のひらを下に向けてゴムバンドを体の正面で握る。テーブルをふくように体の前から外側に引っ張る。このとき、ひじが脇から離れないように注意する
A内旋運動(肩を内側に回す運動)
手のひらを下に向けてもう一方の端を握る。テーブルをふくように体の横から前へと内側に向かって引っ張る。ひじが脇から離れないように注意する。
B拳上運動(肩を上げる運動)
ゴムバンドの端を足裏で踏んで固定し、もう一方の端を親指が体側を向くようにして握る。斜め45度の方向にゴムバンドを引き上げる。引っ張り上げたとき腕と体の正面の角度が最大30度(こぶし2個分)になるようにする
※外旋、内旋、拳上運動は各30回、3セット行う

ひとくちガイド
《本》
◆五十肩について知りたければ
「肩が痛い、腕が上がらない−五十肩」(加藤文雄監修、NHK出版)
《ホームページ》
◆五十肩の症状、診断、治療は
日本整形外科学会の「整形外科シリーズ5 五十肩(肩関節周囲炎)
http://www.joa.or.jp/jp/frame.asp?idi=25

2007.7.22 記事提供 日経新聞