●ストレスがたまるわけ
私たち人間が食べ物を食べるために働く体の器官を「咀嚼(そしゃく)器官」といいます。この「咀嚼(そしゃく)器官は」生命の進化の中で、魚の「えら」から生まれたものと考えられています。この「咀嚼器官」を動かす筋肉は手や足の筋肉と違い、心臓や胃のような内臓の筋肉と同じ仲間に入る体の中でも特別な動きや働きをする大切な部分といえるでしょう。ところで人間の体の中で大切な場所といえば頭の中にある脳です。
脳は400〜500万年の間に約3倍にも大きく発達してきました。大きくなったと言っても古い脳が膨らんで大きくなったわけではありません。古い脳の上に新しくできた脳がおおいかぶさるようになってだんだん大きくなってきたのです。
古い脳の上にまず大脳辺縁系ができました。これは人間の本能(ものを食べたり子供を作るなどのこと)や、怒ったり泣いたりする感情の部分の働きをもっています。
その上にできた新しい脳が大脳新皮質と呼ばれるもので、これは大脳辺縁系の働きを抑える力を持っています。具体的には、人間が本能的に持っている攻撃的なふるまいや感情を抑えようとする働きで、私たちが小学校、中学校で「他の人を傷つけたり、乱暴なことをしてはいけません」と教えられるのもこの大脳新皮質の働きによるもので、「理性」と呼んでいます。
ところが、この人間が持っている本能を抑えることが、ストレスを生む原因となるのです。子供がいつも両親に怒られて我慢していると脳の中にストレスがたまり、我慢が限界になるといわゆる「きれる」ことになります。実はこのストレスと歯の咬み合わせにはとても密接な関係があるのです。
●体の眠り、脳の眠り
私たち人間は昼間働き廻って疲れた体を休めるために夜睡眠をとります。体を体を休めるための睡眠を「レム睡眠」、頭を休める睡眠を「ノンレム睡眠」と呼んでいますが、私たちは寝ている間にこの「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」を交互にとっていることが明らかになっています。「レム睡眠」の間は体のほとんどの筋肉が休んでいるのですが、この時、脳と内臓の筋肉、最初にお話した口の周りを中心とした「咀嚼筋」も活動しているのです。これが「歯ぎしり」を起こす原因となります。さてこの「歯ぎしり」は人間にとって悪いものなのでしょうか。
●よい歯ぎしりは健康の秘訣
人間は脳が進化する間に本能を抑えるようになり、そのためにストレスを体にため込むようになりました。このストレスはどうにかして発散しなければ、体のホルモンや神経などあちこちに影響が出て、ひどいときには病気の原因にもなります。
かといって本能のままに攻撃的なことをするわけにはいきません。
そこで人間は自分の体を守るために、寝ている間にストレスを発散するように、無意識に歯ぎしりをするようになったのです。
ですから歯ぎしりは無理に止めさせるよりも、歯やあごが痛まないように適度な歯ぎしりができるようにしてあげることが健康を維持する秘訣にもなるわけで、歯の咬み合わせは人間の体にとってとても大切な意味を持つと言えるでしょう。
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