悪化防ぐコツ
食事は腹八分目 適度な運動継続
糖尿病は目立った症状もないままゆっくりと進行し、失明や腎臓病、心臓病など様々な合併症を招く。日本人の場合、一部の患者を除き、肥満などが原因となることが多い。バランスのとれた食事や適度な運動を日常生活でこころがければ、かなり予防できると専門家はいう。糖尿病にならない、なっても悪化させないコツを調べた。
糖尿病は膵臓(すいぞう)から分泌されるホルモンのインスリンが足りなくなるか働きにくくなって血中の血糖値が高くなる。血糖値が高い状態が続くと、血管が傷つき、様々な合併症が起こる。毛細血管が傷害されて発症する神経障害と網膜症、腎症が「三大合併症」だ。
成人6.3人に1人
厚生労働省が2002年に実施した調査によると、日本人で糖尿病が強く疑われる人は約740万人。可能性が否定できない予備軍も合わせると約1620万人となり、成人6.3人に1人の割合に達する。
糖尿病が進行する仕組みはこうだ。肥満になると、脂肪からインスリンの働きを妨げる物質が出るなどで、効き目(感受性)が落ちる。体は量で補おうとして、膵臓から大量のインスリンを分泌するようになる。「高インスリン血症」と呼ぶ状態で、長く続くと膵臓が疲弊してインスリンをうまく作れなくなり、一気に血糖値が上昇して病状が進む。
健康診断などで血糖値が上昇傾向にあるのなら、まず食事と運動によって悪循環を断ち切ることが予防・悪化防止の第一歩となる。
食事は腹八分目を心がけ、カロリーや栄養バランスに配慮する。最適なエネルギー摂取量は身長や日ごろの活動量、肥満の度合いなどによって異なるが、日本糖尿病学会のガイドラインによると男性で1日1400−1800キロカロリー、女性は同1200−1600キロカロリー。アルコールもできるだけ控えるのが望ましいとされる。
糖尿病の予防にとくに有効とされる運動はウオーキングやジョギング、水泳のように時間をかけて継続する「有酸素運動」だ。短期間で体に負担をかける運動と比べ、体内の脂肪や糖が消費されやすい。
継続的な運動は単に肥満を防ぐだけでなく、インスリン感受性を向上する効果もある。1回の運動で翌日くらいまで続くため、「運動は毎日か1日おき。中2日はあけない方がよい」(御茶の水女子大学の曽根博仁・准教授)。
1回の運動は最低でも20−30分間は続ける。もっとも病状が悪化した人だと運動によって悪影響が出ることもあるので医師に相談しよう。
厚労省は06年、生活習慣病を予防するため、「健康づくりのための運動指針」を公表した。様々な運動の強度を「メッツ」という単位で表し、どの運動がどれくらい体への負荷になるのかを示している。
何もせず静かに座っている状態の身体活動の強度が「1メッツ」で、これを1時間続けた場合の活動量が「1メッツ時」。これに対しての何倍のエネルギー量を消費するかで様々な運動の強度を示しており、例えばウオーキングなどで速足で歩くときの運動強度は4メッツとなる。
指針では健康づくりのために週4メッツ時以上、意識的な運動をすることを勧めている。国立健康・栄養研究所の宮地元彦プロジェクトリーダーは「糖尿病の人が血糖値を下げるなら週6メッツ時、肥満を改善するなら週10メッツ時以上の運動が目安となる」と話す。
好きな運動を続けるのが一番だが、運動習慣のない人はあまり無理をせず、ウオーキングなどの軽い運動から始めるのがよい。
喫煙は糖尿病の人の場合、腎症を合併するリスクを高くすることが分かっている。曽根准教授らが男性患者357人を約6年間追跡調査したところ、喫煙習慣のある人の腎症発症リスクは吸わない人の2.1倍に達していた。
(本田幸久)
糖尿病を予防するための食事の注意点
・食事の量は腹八分目
・食品の種類はできるだけ多く
・脂肪分を控えめに
・食物繊維を多く含む野菜、海藻、キノコなどをとる
・朝、昼、晩の3食を規則正しく
・ゆっくりかんで食べる
主な運動の強度の目安
強度(メッツ) 活動内容
3.0 ボウリング、バレーボール、軽・中程度のウエートトレーニング
4.0 速歩(平地、95〜100メートル/分)、卓球、太極拳、水中体操
4.5 バドミントン、ゴルフ(クラブを自分で運ぶ、待ち時間を除く)
4.8 バレエ
5.0 ソフトボール、野球
6.0 高強度のウエートトレーニング(パワーリフティング、ボディービル)、バスケットボール、ゆ っくりとしたスイミング
6.5 エアロビクス
7.0 ジョギング、サッカー、テニス、スケート、スキー
(注)メッツは身体活動強度を示す単位。何もせずに安静にしているときの運動強度が1メッツ。エネルギー消費量(キロカロリー)=(身体活動強度×時間)×体重(キロ)×1.05。例えば体重70キロの人が1時間速足で歩いたときの消費エネルギーは、4(メッツ)×1(時間)×70(キロ)×1.05=294(キロカロリー)
ひとくちガイド
《ホームページ》
◆糖尿病の解説や生活習慣チェックリストなど
厚生労働省の糖尿病のホームページ
(http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/seikatu/tounyou/)
《本》
◆糖尿病の食事療法のための手引書『糖尿病食事療法のための食品交換表』(日本糖尿病学会編、文光堂) |