栄養 子供と食事の関係に関する新発見が相次いでいる

ニューヨーク州ベイポートに住むケリン・クラフトは息子のボーをごく普通の赤ちゃんだと思っていた。だがボーが8ヵ月になったころ、同じころに生まれた近所の子供の世話を始めると、2人の違いに愕然とした。

「ボーは5分しか集中できない子だとわかった。ブランコに乗るのも5分、ブロック遊びも5分、私のところにいるのも5分」
3歳になったボーは保育園でけんかし、家では壁に体当たりする聞き分けのない子だった。そのうえ、鼻づまりや涙目、睡眠時無呼吸を起こしていた。

クラフトは食生活を振り返った。ボーの食事は、もっぱらワッフルやピザ、マカロニ、フライドポテトなど。専門医は小麦アレルギーと診断した。そこでクラフトは、玄米ピザや小麦不使用のパンを食べさせるようにした。
「1週間後、保育園の先生に、こんなにがらっと変わったお子さんは初めてです、と褒められた」

現在、ボーは4歳。性格は落ち着き、涙目や鼻づまりも治まっている。クラフトが気分は変わったかと聞くと、体をぐらぐら揺らし、「こんな感じじゃなくなったよ」と答えたという。

幼児期の食事の重要性は、誰も否定しない。だがボーの例が示すように、その影響は強い骨を作るといった程度にとどまらないようだ。食物の子供の健康に関する発見が次々と報告されている。

いわく、食べ物の好みはある程度、母親の胎内で決まる。母親が食べた物の成分が、母乳を通じて子供にアレルギーを起こさせることがある。摂取する脂肪の種類が脳の発達に影響する??。成長のごく初期の段階から、栄養はその子の一生の健康を左右するのだ。

つわりが赤ちゃんを守る

受精後数週間して神経が形成されはじめる時期から、必要な栄養素は決まっている。妊婦が正しい食生活を送れば、脊椎披裂や無脳症といった先天異常のリスクが減ることは、専門家の間では常識だ。

1990年代初めに、専門家は葉酸(葉野菜に多く含まれるビタミンBの一種)が不足がちな女性の子供に、こうした症状が出やすいことを突き止めた。米政府は現在、妊娠可能年齢の全女性に葉酸を毎日400ミリグラム、妊婦には800ミリグラムを取るよう勧めている。

マルチビタミン剤はたいてい400ミリグラムの葉酸を含んでいるが、食物から摂取したいなら、オレンジ、ホウレンソウ、カリフラワー、ブロッコリーを食べよう。栄養強化されたシリアル類も葉酸の宝庫だ。

妊婦の約60%は、妊娠後の2、3ヵ月に吐き気や食物への嫌悪感を覚える。最近の研究によると、この不快感には訳がある。

人間が食べる植物のほとんど、とりわけ味が濃い野菜や苦い野菜は、天然の殺虫剤を含んでいる。概して人間に害はないが、胎児には有害なものもあるのかもしれない。

生物学者のマージー・プロフェットは、95年の著書『つわり――自然の防御機能が赤ちゃんを守る』で、妊娠3週から4〜5ヵ月まで続くつわりの時期は、退治の手足、内臓、神経の形成期と重なると指摘。さらに妊婦が吐き気を覚える食べ物は、キャベツやニンニク、バジル、マッシュルームなど胎児の発育を妨げる可能性が高い食品だった。

コーネル大学の生物学者ポール・シャーマンとサミュエル・フラクスマンは昨年春、8万人の妊婦を対象に行った56の研究を本にまとめた。プロフェットの指摘どおり、妊娠中に特定の食品を受けつけなくなったグループのほうが、妊娠前と同じ食生活を続けたグループより流産の率が低かった。

羊水を通じて味を伝達

とはいえ、妊婦が避けるべき食品を特定するには、まだ研究データが不足している。とりあえずは体の要求に従い、食べたくない物は食べないほうが無難だろう。栄養不足が心配なら、医師や栄養士に相談しよう。ビタミン剤などで補給するのもいい。

逆に、摂取量を増やしたい栄養素もある。例えば長鎖多価不飽和脂肪酸。脳の発達に関連があるとして注目を浴びている。

人間の神経膜組織の半分は、長鎖多価不飽和脂肪酸に属するドコサヘキサエン酸(DHA)やアラキドン酸(AA)でできている。植物油は体内でAAに変化するが、DHAは食べ物から取るしかない。最高の摂取源は、DHAを豊富に含む海草を食料とする天然魚だ。

DHAは幼児の食生活に必須だし、産後の鬱を防ぐ効能も期待できる。ロックフェラー大学の栄養学者バーバラ・レバインは、産前産後の女性に栄養補助食品で脂肪酸を摂取するよう勧めている。

妊娠中の正しい食生活は、子供の偏食予防にもつながる。モネル・ケミカル・センシズ・センター(フィラデルフィア)の研究によれば、妊娠中にニンジンジュースを飲んでいた母親の子供は、ジュースを飲まなかった母親の子よりも抵抗なく、生後6ヵ月でシリアルに混ぜたニンジンジュースを飲んだという。羊水を通じてニンジンの味が退治の味蕾に伝えられた、と専門家はみている。

子宮でピーマンの味を覚えた子供が、ケーキよりピーマンを好む3歳児に育つ保証はないが、「胎児が味を覚えるのは明らかなようだ」と、研究を指揮した生物心理学者のジュリー・メネラは言う。どんな味を覚えるかは、親次第だ。

できれば母乳を1年間

新生児が生後6ヵ月までに必要とする栄養は、「母乳」のひとことに尽きる。母親の免疫システムがつくり出した抗体を含む母乳は、耳や肺や尿路の感染症、下痢から赤ちゃんを守る。リンパ腫、糖尿病、大腸炎、肥満、アレルギーの予防はもちろん、乳幼児突然死症候群にも効果が期待できる。

知能の発達にも影響するようだ。ケンタッキー大学のジェームズ・アンダーソンが最近の研究を20例調べたところ、母乳育ちの子供は小学校の知能テストで、粉ミルク育ちの子供より平均5ポイント高かったという。

6ヵ月を過ぎた赤ちゃんは、固形物を食べられる。だがWHO(世界保健機関)も米政府も、全米小児科学会(AAP)も、授乳は最低1年間続けるべきだとしている。

とはいえ母乳をやりたくても、仕事の都合や体の調子で挫折する母親も多い。粉ミルクで育つ子供に問題があるわけではないから、後ろめたく思う必要はない。脂肪酸を添加した粉ミルクも、すでに販売されている。

赤ちゃんがマッシュポテトを好奇心いっぱいの目で見つめたら、離乳食に移行しよう。最初は鉄分強化型のシリアルに、母乳か粉ミルクを加えたもので十分。専門家によると、生後7、8ヵ月の子供に新しい食べ物を与える際には、1度に1種ずつ、数日あけて食べさせるのがいい。

2歳未満の子供の6%は、なんらかの食物アレルギーを起こす。2、3日様子を見て悪い兆候がなければ安心していい。アレルギーを起こしやすい小麦やピーナツ、卵、かんきつ類、牛乳は、1歳までは避けよう。3歳になると免疫系が発達し、大半のアレルギーは消える。

親自身の食生活が手本

子供が1歳を過ぎ、食べ物により深い興味を見せたら、親が手本を示そう。飢えの心配のない国でも栄養不良は少なくなく、肥満、糖尿病、高血圧といった疾患をかかえる子供も珍しくない。

子供の消費カロリーは、身長1センチにつき1日約15.7キロカロリー。身長80センチの幼児なら、だいたい1260キロカロリーの計算になる。

コロンビア大学の栄養士ワヒダ・カーマリーは「フライドポテトとハンバーガーを手に、ジュースを飲みながら診療所に来る子供が多い」と言う。これだけで1日のカロリーは足りる。「5人に1人の子供が太りすぎなのも当然だ」
よちよち歩きのころから、子供はジャンクフードに目がない。だが、その手の食べ物の広告の嵐に免疫をつけさせる方法はある。

ウェールズ大学の研究チームは「フード・デュード」なるアニメのヒーローを誕生させた。体にいい食べ物が好きな子供と遊ぶキャラクターだ。

このビデオを20人の未就学児童に見せ、おまけを渡して、果物や野菜を食べようと促した。研究チームを率いた児童心理学者のファーガス・ロウによれば、3週間後には果物や野菜の摂取量が71%増加し、実験から15ヵ月たっても効果は消えなかった。

無理やり食べさせるのは、むしろ逆効果。幼児はなにかと人のまねをしたがる。だから、わが子に健やかな人生を送らせたいなら、親が正しい手本を示そう。
将来、フライドポテトにそっぽを向かないまでも、ハンバーガーではなく野菜バーガーを選ぶようになるかもしれない。
スティーブン・ウィリアムズ

いいこと
1.
バラエティー豊かな食品に触れさせる。
2.
カロリー計算。子供が1日に必要な熱量は身長1センチにつき15.7キロカロリーが目安。

3.

脂肪分に気をつけ、栄養のバランスの取れた食事を心がける
いけないこと
1.
子供は子供向けの食品を食べるものと、勝手に決めつける
2.
新鮮な野菜や果物や魚を、加工食品で代用する
3.
食事のたびに、子供に甘いデザートを与える
いいこと
1.
妊娠中に限らず、日ごろから葉酸を摂取する
2.
子供にはなるべく新鮮な果物や野菜を食べさせる
3.
親自身が手本を示して、体にいい食事の楽しみを教える
いけないこと
1.
妊娠中、吐き気を覚える食べ物を無理に食べる
2.
嫌いな食べ物を無理強いする
3.
自分はジャンクフードばかり食べながら、子供に正しい食生活を期待する

 

(2001.1.17 NEWSWEEK)