ベースライン時の腎疾患の有無にかかわらず、
腎機能低下は心不全、心筋梗塞、
末梢動脈疾患、早期死亡のリスク増加に関連する。
【11月19日】11月5日の『Journal of the American Society of Nephrology』オンラインに報告された2試験の結果によれば、腎疾患の有無にかかわらず腎機能低下は心血管系転帰の悪化と早期死亡に関連するという。
試験1: Shlipak博士らの試験
「ある一時点で明らかにされる慢性腎疾患 (CKD) は、心血管疾患の重要な危険因子である」とサンフランシスコ退役軍人局メディカルセンター (カリフォルニア州サンフランシスコ) のMichael G. Shlipak, MD, MPHらCardiovascular Health Studyの研究者らは書く。「腎機能低下率が心血管リスクの増加に寄与するかどうかは分かっていない」。
博士らは7年間の腎機能変化と、その後8年間の心不全、心筋梗塞、脳卒中、末梢動脈疾患の発生率の関係を比較してみた。
ベースライン、3年目、7年目にシスタチンCによる糸球体ろ過量 (GFR) 推定値を測定し、年3 mL/分/1.73 m2以上を急速な腎機能低下と判定した。急速な腎機能低下は適格患者4378例中1083例 (25%) に認められた。これらの患者では各タイプの心血管イベント発生率が有意に高かった (すべてP < 0.001)。
人口統計学的因子、心血管疾患の危険因子、ベースラインの腎機能について多変量補正後、急速な腎機能低下と心不全 (補正ハザード比 [HR] 1.32、95%信頼区間 [CI] 1.13 - 1.53)、 心筋梗塞 (HR 1.48、95% CI 1.21 - 1.83)、末梢動脈疾患 (HR 1.67、95% CI 1.02 - 2.75) に有意な関連がみられたが、脳卒中 (HR 1.19、95% CI 0.97 - 1.45) とは関連しなかった。CKDの有無により、急速な腎機能低下と各転帰の関連は変化しなかった。
「CKD患者でも非CKD患者でも腎機能低下はHF [心不全]、MI [心筋梗塞]、PAD [末梢動脈疾患] のリスク増加と関連する」と著者らは書く。
同試験の限界は、因果関係を特定できなかったこと、7年間の追跡期間中に間接的腎機能測定を3回しか行わなかったこと、ベースラインでアルブミン尿を測定しなかったことである。
「今後の研究で同じ結果が出れば、腎機能を安定させるための長期治療がCVD [心血管疾患] リスクの低下に有効である可能性がある」と著者らは結論する。「心血管に対する腎疾患の影響を正しく評価するため、将来的には静的な腎機能測定値だけでなく、機能変化の進行についても検討するべきである」。
試験2: Matsushita博士らの試験
ジョンズ・ホプキンス 大学ブルームバーグ公衆衛生大学院 (メリーランド州ボルチモア) のKunihiro Matsushita, MD, PhDらが実施した2つ目の試験では、3年目、9年目のGFR推定値の変化が冠動脈疾患と全死因死亡のリスクに関連するかが検討された。試験コホートは1987年から2006年まで観察した45 - 64歳の地域住民サンプルからなるAtherosclerosis Risk in Communities Studyの参加者13,029人であった。
Cox比例ハザードモデルでGFR推定値などのベースライン共変量を補正した後の冠動脈疾患と全死因死亡のリスクは、GFR推定値が第3四分位に入った人 (年低下率0.33% - 0.47%) より年低下率が高い人 (? 5.65%) の方が有意に高かった。冠動脈疾患のHRは1.30 (95% CI 1.11 - 1.52)、全死因死亡のHRは1.22であった (95% CI 1.06 - 1.41)。9年目のGFR推定値の変化で解析した場合も結果は同様であった。2回目に測定したGFR推定値で共変量補正したところ、冠動脈疾患との関連が低下した。しかし死亡との関連は低下しなかった。
ステージIII CKDの人のGFR推定値が最初の3年間に増加した場合も死亡リスクの増加と関連し、著者らはこれを臨床的不安定性によるものとした。
「平均低下量を超えるeGFR [GFR推定値] の急激な低下は冠動脈疾患と全死因死亡のリスク増加と関連する」と著者らは書く。「慢性腎疾患を持つ人のeGFR増加も同じようにリスク増加と関連する。これらの結果から、軽度の腎機能低下であっても日常診療で測定される連続的腎機能データは臨床的に有用であると考えられる」。
同試験の限界は、Modification of Diet in Renal Diseaseの計算式によるGFR推定値が過小評価され正常範囲とされたこと、連続的変化を評価する式が不正確だったこと、時間とともにクレアチニン値がランダムに変動すること、1回目と2回目の来院でアルブミン尿を測定しなかったこと、GFR推定値が60 mL/分/1.73 m2未満の人が比較的少なかったこと、交絡因子が残っている可能性があること、である。 「追跡の際、共変量補正後に腎機能変化と臨床転帰リスクの有意な関連が認められた。このことは、観察された影響が従来の危険因子の悪化と無関係であることを意味する」と著者らは結論する。「これらのデータはeGFRの変動が単なる測定値であるだけでなく予後情報を与えてくれるものであって、外来でよく検査する血清クレアチニンの連続測定値の解釈に役立つ」。
Shlipak博士らの試験は米国心臓協会のEstablished Investigator Awardの支援を受けた。
Atherosclerosis Risk in Communities Study (Matsushitaら) は、米国立心肺血液研究所が支援した共同研究である。著者らの数名は日本学術振興会、米国立衛生研究所/国立糖尿病・消化器病・腎臓病研究所、米国立衛生研究所/国立心肺血液研究所の支援を受けた。
どちらの試験の著者も金銭的利害関係の開示情報はない。
J Am Soc Nephrol. Published online November 5, 2009.
Medscape Medical News 2009. (C) 2009 Medscape
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