頭痛や皮膚異常

本来は体にいいサプリメントなどの栄養補助食品。しかし過剰にとりすぎると、人によって吐き気や下痢、頻尿などの症状が起こりうるという。「健康にいい」の上限を探った。

体調が悪くなって病院に行った際、問診で「ふだんサプリメントなど健康食品をとっていますか」と聞かれたことはないだろうか。栄養素の過剰摂取問題に詳しい東京都新宿区のエターナル・クリニックの小林暁子院長は「頻尿、下痢の原因がビタミンCのとりすぎただったことがある」と話す。薬の飲みあわせとのかね合いもあり「医師の4割前後が患者に健康食品の利用状況を確認している」(東京都福祉保健局)という。ビタミンCは水溶性で、たくさんとっても尿として排出され害はあまりないとされてきた。しかし英国食品基準庁のサプリメントの安全基準では「ビタミンCの1日1千ミリグラム以上の摂取は腹部の痛みと下痢を引き起こす原因となりうる」。

千ミリグラムのビタミンCはレモンだと約1キロ分、ロースハムで約2キロ相当で、食事でこれだけの量をとることはまずない。しかし500グラム入りの錠剤だとわずか2粒分。過剰に摂取すると、おなかを壊してしまう可能性がある。

過剰摂取が健康上の害につながりうるのはビタミンAやB6、D、Eなど。ビタミンは野菜に多く含まれると思いがちだが、たとえばビタミンAはレバーやウナギなどに多く含まれる。1日の摂取量の目安は600マイクログラム(1マイクログラムは100万分の1)で、ウナギが100グラムのっているうな丼なら1500マイクログラム程度。「野菜不足でビタミンAが足りない」と思いこみ、さらに錠剤で補うと一気に摂取量が増えてしまう。

かば焼きを食べ過ぎると問題なのだろうか。国立健康・栄養研究所の梅垣敬三健康食品情報プロジェクトリーダーは「料理でとっている限り、1日当たりの目安を大きく上回っても何の問題もない」と話す。ビタミンAは一度に大量にとっても「いったん肝臓に蓄えられ、血液中のレベルはほぼ一定に保たれる」(梅垣さん)よう調節機能が働くからだ。

ただ、どんなにウナギ好きでも毎日食べ続けるようなことはまずないが、サプリメントだと「満腹感がないので、摂取量の自覚がないまま習慣化してしまいがち」(梅垣さん)。過剰摂取が恒常化すると、下痢や皮膚の硬化と剥離(はくり)などが起きる可能性がある。

ここで注意したいのが1日当たりの摂取量の目安の意味。足りなければすぐ補わなければと思いがちだが、1日当たり摂取量とは「1カ月に必要な量を1日平均にならしたもので、毎日必ずとらなくても大丈夫」(梅垣さん)。

海藻類に多く含まれるヨウ素は過剰摂取すると甲状腺障害などの症状も出る。健康によいと昆布ばかり食べ続けると良くないが「古来の生活習慣になじんだ普通の食べ方なら問題ない」(東京都福祉保健局)。

乳がんや骨粗しょう症の予防効果があるとされる大豆イソフラボンも、錠剤などで過剰摂取するとホルモンバランスが崩れる可能性がある。内閣府の食品安全委員会は2006年1月、安全な1日摂取目安量を70−75ミリグラムとし、特定保健用食品としての安全な1日の上限値を30ミリグラムと設定した。

納豆100グラム中に平均で大豆イソフラボンは73.5ミリグラム、豆腐には同20.3ミリグラム程度含まれる。豆腐1丁は350グラム前後なので、1丁で1日の上限値近くなる。同委員会は「妊娠中の女性や乳幼児は日常の食生活に追加して摂取することは推奨できない」としている。

ベネッセ教育研究開発センターの04年の調査では、高校2年生で約3割、小学校4年生で約2割の生徒が栄養ドリンクやサプリメントをとっていることがわかった。どんな栄養素でも「良い面と悪い面がある」(梅垣さん)。サプリメントには含有量の表示がある。適量を上手にとるよう心がけよう。

30〜49歳の女性の1日の栄養素摂取基準と過不足時の症状
栄養素 1日の食事摂取基準 食品の含有量(100グラム当たり) 過剰摂取で起こる可能性のある症状 不足で起こる可能性のある症状
ビタミンA 600マイクログラムRE(推)
3000マイクログラムRE(上)

鶏レバー14000マイクログラムRE
ウナギかば焼き1500マイクログラムRE

短期的に過剰摂取すると吐き気、頭痛など。
長期なら中枢神経系への影響など。

目の角膜や粘膜がダメージを受け視力低下など

ビタミンC 100ミリグラム(推) 赤ピーマン170ミリグラム
レモン100ミリグラム

吐き気、下痢、腹痛

毛細血管から出血、消化不良など
ビタミンD 5マイクログラム(目)
50マイクログラム(上)
乾燥キクラゲ435マイクログラム 腎臓や筋肉へのカルシウムの沈着、吐き気、嘔吐(おうと)など

骨代謝異常で骨軟化症など

ヨウ素 150マイクログラム(推)
3000マイクログラム(上)
こんぶ13100マイクログラム
わかめ7790マイクログラム
甲状腺機能低下症、甲状腺腫、甲状腺中毒症 甲状腺肥大、甲状腺腫など
セレン 25マイクログラム(推)
350マイクログラム(上)
うに220マイクログラ
しらす干し210マイクログラム

つめの変形、胃腸障害、神経障害など。グラム単位で摂取すると重症の胃腸障害など

細胞障害、心筋症の一種、筋肉痛など

(注)独立行政法人国立健康・栄養研究所の安全性・有効性情報をもとに作成。REはビタミンAの計量単位。(推)は推奨量、(目)は目安量、(上)は上限量。推奨量は1日の必要量を満たす量。目安量は良好な栄養状態を保つのに十分な量。上限量は健康障害を起こさぬ最大量


2006.11.11 日本経済新聞