肉の内臓から摂取

フレンチ・パラドックスの謎に迫るオルレアンでの検診は、真っ赤な乗馬服のよく似合うジャンヌ・ダルクさながら女性保健師さんのおかげで実現した。

50代前半の男女100人ずつの尿や血液を調べた。24時間尿から日本人と同程度、またはそれ以上の量のタウリンが出てきたのには驚いた。

タウリンはアミノ酸の一種で体の臓器や組織にある程度の量、存在する。いかやたこ、かつおなどの魚介類に多く含まれており、肝臓をいたわる成分として知られているほか、私たちの研究でもコレステロールや血圧を下げ、尿中タウリン量が多いほど、心筋梗塞(こうそく)は少ないことがわかってきている。

欧米人に比べて魚をよく食べる日本人のタウリン量が多いのは納得できるが、内陸部のオルレアンで暮らす人々のタウリン摂取量が日本人並みというのはどういうことか。普段の食事でたくさんの魚を食べているとは思えない。

聞き取り調査をしたところ、興味深いことがわかってきた。オルレアンの人たちは肉を食べることが多いが、ロースやヒレだけでなく、肝臓や腎臓、心臓などの内臓も全部食べるという。家庭料理であるポトフがその代表例。魚でなく、肉の内臓からタウリンをとっていることになる。心臓病が少ない理由としてもうひとつ考えられるのがミネラルウォーターだ。日本でもペットボトル入り天然水は当たり前になってきたが、水道水が飲料になじまないフランスでは、昔からミネラルウオーターが愛飲されてきた。

山の奥からわき出るミネラルウオーターには、土の中にマグネシウムやカルシウムなどが豊富に含まれている。尿中にこうしたミネラル分が多い人ほど、血圧が低くなる傾向にあることがわれわれの研究でわかっている。マグネシウムやカルシウムには、塩分を体外に排出する働きがある。

脂肪分の多い食事を楽しんでいても、心筋梗塞などの心臓病が少ない。「フレンチ・パラドックス」を生むのはなにも赤ワインだけではなかった。
(武庫川女子大国際健康開発研究所長  家森 幸男)

2006.11.19 日本経済新聞