エスニック食材 上手に食べよう
トウガラシには体温調節効果


イタリア料理や韓国料理に欠かせないニンニクとトウガラシ。昔から「元気の源」として重宝がられている食材だ。香りや辛みをうまく生かせば高血圧の原因とされる食塩の取りすぎを避けることができる。ただ、がん予防や減量効果に過度な期待を持つのはよくない。

がんリスク軽減か
「ニンニクとがん予防」――。米国立がん研究所(NCI)のホームページで「ニンニク」を検索すると、こんなタイトルのページが出てくる。「人間がニンニクやその成分をとった場合を調べた37の調査研究のうち、約8割でがん予防効果が確認できた」。特に前立腺がんと胃がんで顕著な効果がみられるという。

ニンニクのがん予防効果が初めて発見されたのは1957年。その後も動物実験や疫学調査が数多く実施された。米国では週1回以上ニンニクを食べている女性は、全く食べない人に比べて大腸がんのリスクが半分になるという研究結果が出た。

ニンニクには「アリイン」という成分がある。皮をむいたり切ったりするとニンニクの中の酵素がアリインに働き、「アリシン」という物質ができ、さらに他の物質に変わっていく。こうした成分ががん細胞の増殖を抑えたり、体の免疫力を高めたりするとされる。

ただ、国立がんセンターの津金昌一郎予防研究部長は「ニンニクのがん予防効果について、人間を対象に(新薬開発時のような)比較試験が行われたことはまだないのではないか」と説明する。ほんとうにニンニクでがんになりにくくなるかはまだ科学的検証が半ばだ。

疲労回復にいいとされる栄養素のビタミンB1がアリシンと結合すると体内での吸収性が高まる。また、アリシンとビタミンB1が結合してできた成分が身近なところだと栄養ドリンクや点滴に含まれている。

ニンニクパワーを損なわないようにするには酵素をうまく働かせるのがポイント。加熱すると酵素は壊れる。調理する前に皮をむいたり刻んだりした状態で約15分おく。酵素がアイリンに作用し、いろいろな成分が出てくる。においを消したい場合は丸ごと電子レンジなどで加熱するのがよい。

ハウス食品ソマテックセンタースパイス研究室の鳴神寿彦室長は「ニンニクには百種類以上もの化合物が存在し、どれが体に作用しているのかよくわかっていない点もある」と説明する。
減量効果は未知数

もう1つのエスニック食材トウガラシで期待できるのは体温調節効果だ。
トウガラシを食べると体内の臓器の温度(深部温度)が0.5度前後上がるとの研究報告はいくつもある。夏などトウガラシを食べて発汗を促せば汗が蒸発する際の気化熱で肌の表面温度が下がり涼しく感じる。

トウガラシの辛みのもと「カプサイシン」と呼ぶ成分がこうした健康効果を引き起こす。皮膚に少し付いただけでも赤くはれてしまうほど刺激性の強い物質だが、舌や胃腸にある「カプサイシン受容体」にくっつくと、自律神経のなかでも交感神経の働きが活発になり血行が良くなって体が温まる。

副交感神経に比べ交感神経が優位な状態が続くとエネルギー消費も高まるとされる。「トウガラシを食べるとやせる」といった減量効果が注目され、カプサイシンを主成分としたダイエット食品やサプリメントは今でも人気だ。

減量効果を示唆する研究はあるが、対象人数が少なかったりするなど研究としての信頼性について意見が分かれている。個人差が大きく最低限どれくらいの量のカプサイシンをとれば効果が出るのかもよくわかっていない。

トウガラシを20年間研究している静岡県立大学の渡辺達夫教授は「トウガラシは健康食だが、やせる効果を期待しすぎないこと。辛さを楽しんで食べるのが一番」とアドバイスする。
(北松円香)


トウガラシとニンニクの上手な食べ方

▽トウガラシ
・一度に大量にとると胃腸を痛めるおそれがあるので避ける
・油と一緒に調理すると、辛みの成分が溶け出しやすい
・口の中が辛くなりすぎたら →
・牛乳を飲んだり、ヨーグルトを食べたりする(辛み成分はたんぱく質と結合しやすい)
・水を飲む(辛み成分を舌などの受容体から洗い流す)
・牛乳や水は冷たい方が効果的(冷たくすると同じ濃度の辛み成分でも、辛さが弱まる)
▽ニンニク
・豚肉など、ビタミンBが多い食品と一緒に食べる
・皮をむいたり刻んだりしたら加熱前に15分待ち、酵素を働かせる
・長く置きすぎてにおいが飛ぶと、体に良い成分も減るので注意



2007.2.4 日本経済新聞