野菜に含まれている豊富なビタミン類や食物繊維は、体調を整えるだけでなく、がんや動脈硬化など様々な病気を予防する効果がある。貝原益軒の『養生訓』でも「菜は穀肉の足らざるを助けて消化しやすし」と書かれている。ビタミンなどの概念がなかった昔でも、穀物や肉類だけでは栄養が足らないことがわかっていたのであろう。
日本人の野菜摂取量は少ない。1日350グラム以上とるべきだと言われているが、2002年度の厚生労働省の国民栄養調査によると270グラム。特に若い年代の摂取量が少なく、20代は247グラムしかとっていない。1年間の国民1人当たりの野菜供給量を米国と比較してみると、米国はこの20年で徐々に増えているのに対し、日本は逆に減っている。かつては日本人の方が野菜を多く食べていたが1996年ごろを境に立場が逆転した。現在の日本の野菜摂取量は、アジア諸国と比べても少なく、韓国の半分近い量でしかない。
野菜にはビタミンやミネラル、食物繊維など体にとって不可欠な栄養素が豊富だが、実はそれだけではない。香りや、色素、辛みなど数多くの成分が抗酸化作用を持ち、様々な病気を予防することが国内外の研究でわかってきた。
特に興味深いのが米国立がん研究所(NCI)の取り組みだ。がん抑制効果のある成分を持った野菜や果物の組み合わせを考える「デザイナーフーズ・プログラム」が開発された。有効成分を持つ食品約40種類を取り上げた。中でもニンニク、ショウガ、ニンジン、セロリ、キャベツなどの野菜が最も効果が高いという。抗酸化作用により肺、胃、食道、大腸、膵臓(すいぞう)がんなどを防ぐ可能性がある。
動脈硬化を予防し心臓病の発症や脂肪を防ぎ、糖尿病を予防する効果や抗老化作用もあると言われている。
日本人は昔から肉や脂の摂取を控え、米飯を主食として野菜をたくさんとってきた。しかし、過去20年の間で食のスタイルは大きく様変わりした。長寿を支えてきた食生活が失われつつあることは大きな問題だと思う。
(国立長寿医療センター疫学研究部長 下方 浩史)