すっかりお馴染みになった北京ダック、琥珀(こはく)色の光沢と甘い香ばしさに思わずごくんと唾を飲み込んでしまう。調理人は鋭利な刃物でダックの皮を一口大に削ぎ切り、美しく皿に盛り付ける。それを平大の薄く焼いた小麦粉の皮(餅)に乗せ、ほそぎりにした葱ときゅうり、甘味噌を加え、くるりと巻いてほうばる。肉よりも皮を食べる料理だ。

中国人に言わせると「皮は、美味しくて、老化防止になる、肉を食べたらたくさん食べられない」という。グロテスクな、鶏の足の煮付けや子豚の丸焼きなど、どれも皮を食べる料理。皮にはたんぱく質の一種コラーゲンが沢山含まれる。これは皮膚のたるみやしわのできるのを防ぎ、また骨を丈夫にしたりするという。老化するとコラーゲンが減少するため、中国人は好んで皮を美味しく料理して食べようとしている。

はたしてその効果は?NHKテレビの「ためしてガッテン」では、どのようなたんぱく質をとると、より多くのコラーゲンを作ることができるのか、体内のコラーゲン工場ともいえる繊維芽細胞を使って実験をした。使ったたんぱく質はコラーゲン、そして牛乳のたんぱく質カゼイン、卵のたんぱく質アルブミンをそれぞれ分解したアミノ酸である。

その結果、繊維芽細胞がもっとも多くコラーゲンを作り出したのはコラーゲンを分解したアミノ酸であった。この際、ビタミンCを加えるとコラーゲンの合成が促進される。この点から北京ダックとビタミンCの多い野菜や果物を一緒にとる中国人の食事は大変合理的である。
(新宿医院院長  新居 裕久)
2005.4.2 日経新聞