1日300錠の"食事" サプリ生活続ける男性 「大転換」「食が変わる」
1日に飲むサプリメントは64種類、300錠余り。少量のお茶で一気に流し込む。「ゴキッ、ゴキッ」。錠剤やカプセルがこすれ合って音を立てる。1食分の約100錠を飲むのにわずか5秒。「食道を滑り落ちる感触が気持ちいい」。和洋女子大(千葉県)で哲学を教える三浦俊彦(みうら・としひこ)教授(49)の毎日の食事風景だ。
▽効率
東京郊外の一軒家。飾り気のない居間で1人、翌日3食分のサプリを仕分けする。イチョウ葉エキス、高麗ニンジン、梅エキス、マムシ、コラーゲン、サメの肝油...。成分の重複と用量に気を付けながら、仕切りのあるピルケースに朝、昼、晩の分を数粒ずつ入れていく。購入代金は1カ月当たり十数万円。
「普通の食事なら余計な栄養も取ってしまう。考えて飲めばサプリの方が効率が良い」。飽きないし、買い置きできるからと主食としてカップめんなどを食べ、直後にサプリを飲むのが習慣だ。
食べることが嫌なのではない。週2回程度は外食もし、すし店やレストランに入る。「コミュニケーションを取る上で大切」と、学生と会食することもある。それでもサプリは欠かせない。
▽食感と香り
錠剤やカプセルの香りが好きだ。パッケージを開けた瞬間、立ち上る"香気"が心をくすぐる。「飲み込む時の感触と香りの両方を楽しめるサプリは、僕にとって食べ物と同じ。錠剤をごっくんと飲まないと食事した気がしない」と言い切る。
仕分け作業は、成分を読んだり効果を考えたり、じっくり時間をかける。いわば料理をする過程と「同じだ」という。
長野県で生まれ東京都で育った。「懐かしい味」と言えるような好きな家庭料理は特にない。18歳の時、サプリに興味を持ち、次第に飲む種類が増えた。
年1回の健康診断では肝機能や腎機能について、C(要経過観察)の判定を受けることが多いが、ここ10年、歯科医以外の医者にかかったことはない。「風邪をひいたのが一度あるくらい」。現在の体重は55キロ、身長は168センチ。18歳の時と同じだ。
「サプリの食事は不自然だ」と指摘されることもある。しかし「そもそも現代人は糖質や脂肪を多く取る不自然な食生活をしている。加工食品が増えていて、今の食べ物自体が自然に反している」と反論する。
▽誤用例も
1997〜99年に出された旧厚生省の局長通知により、従来は薬局でしか買えなかった錠剤タイプのビタミンやハーブ、ミネラルが食品として販売可能になるなど、規制緩和が進んだ。アンバランスになりがちな食生活の改善や健康志向の高まりと相まって、サプリは一挙に市場を拡大、ありふれた存在になった。
都内にある特定非営利活動法人(NPO法人)「日本サプリメント協会」の後藤典子(ごとう・のりこ)理事長は「サプリの生産量、流通量は確実に伸びている」と指摘。一方で、協会事務局には、ビタミンCの錠剤を飲みすぎて下痢になるなど体調を崩したり、ダイエット法を誤って栄養失調になったりした人が多く相談に訪れる。
後藤理事長は三浦さんのような極端な使用法に警鐘を鳴らす。「栄養バランスの良い食事が基本で、サプリはそれを補うもの。サプリさえ飲んでいれば大丈夫というのは幻想だ。消費者としてリテラシーを高めていかなくては」と話している。