おでんで細胞ほかほか

「おでんに爛酒」という言葉があるように、寒くなるとおでんが恋しくなる。おでんとは田楽の御所言葉で、お田楽の略。室町時代の串に刺した豆腐の味噌焼きが原型だという。

その後民間に広まった。江戸時代には、すし、てんぷらとならんで庶民の楽しむ屋台の定番となった。関西では、おでんのことを関東炊きという。これは1923年(大正12年)の関東大震災後に東京から移住した料理人が売り出したそうだ。そして2年後神戸から東京に逆流入して、今ある煮込みおでんになったという。

このおでんは、たっぷりの煮汁で煮込んだもので、材料は地域により異なるが一般にちくわ、さつまあげ、つみれ、すじ、はんぺんのような魚肉の練り製品が多い。素材としては、さめ、すけそうだら、ぐち、とびうお、はもなど主に白身の魚が使われる。つみれには赤身のいわし、あじ、さばなども用いられる。

一緒にがんもどき、なまあげ、やきどうふなどの大豆加工品や、こんにゃく、こんぶ、大根、にんじん、さといも、しいたけなどの野菜、そしてゆでたまご、ちくわぶ、ごぼうまきなども入れるので、動物性食品と植物性食品がバランスよくとれる。

おでんそのものは、あつあつをとれば体が暖まり、その上たんぱく質の食事誘発性体熱産生も効く。糖質や脂質をとっても産生するが、たんぱく質の場合は血中アミノ酸量が増加し、各組織の細胞を刺激することなどによって、発生熱が特に大きいのでより体を温める。寒さに向かっての健康維持にもってこいの料理である。
(新宿医院院長  新居 裕久)

2006.12.9記事提供:日経新聞