枕 正しく選ぼう

体格に合わせ、寝返り楽に
高さ 形状 硬さ


朝目覚めたとき頭がきちんと枕の上にあるだろうか。ずれていたり腕の上にのっていたりすれば、枕が合っていない証拠。体を休めるための睡眠が、健康を害している恐れがある。人生の3分の1を過ごす“相棒”は、自分の体格に合わせて正しく選ぼう。

「市販品が自分に合うなんて偶然でしかあり得ない」。長年、枕の研究に取り組んできた16号整形外科(神奈川県相模原市)の山田朱織院長は、一人ひとり、自分の体格に合った枕を選ぶ必要性を訴える。好みの形や素材を選ぶ人も多いが「枕は嗜好(しこう)品ではない」と言い切る。

枕が合う合わないは非常に微妙な問題。試しに一度、今使っている枕の上にタオルケット一枚敷いて頭を置いてみよう。わずか数ミリメートルの厚みが加わるだけで、呼吸のしやすさや首にかかる負担など寝心地が大きく変わる。

微妙な差も悪影響


高さがたった5ミリメートル合っていないだけでも体に様々な悪影響が出る。

頭痛や手のしびれ、肩こり、背中や腰の痛み、足の冷えなどの症状がある人は一度、枕を疑ってみる必要がある。不眠の原因にもなり、朝からやる気が出ない、うつ症状など心の病を引き起こすこともあるという。

どうして寝るときに枕が必要なのか。寝返りを楽に打てる体勢をつくるためだ。睡眠中の体に負担をかけずに自然に寝返りが打てる枕が一番自分に合った枕になる。

寝返りは質の高い睡眠を確保するうえで欠かせない動作だ。一晩で平均20−30回打つとされる。起きているときでも同じ体勢を維持するのはつらいように、寝ているときでも体を動かさないと熱がこもったり、血液など流れが悪くなったりする。

自然に寝返りを打つには、睡眠時の脊椎(せきつい)の形状がポイントになる。立っているときは腰から胸、首にかけてS字を描くようにカーブしている。上からかかる頭の重みを分散して支えるためだが、横になっている時はS字にこだわる必要がない。むしろなるべく真っ直ぐのほうが、寝返りがしやすい。

こうした条件のもと、枕の適切な高さが決まる。横に寝たとき、鼻筋から首、胸の中心を通る脊椎の体軸が真っ直ぐになるかどうかで判断する。他人に見てもらうと分かりやすい。曲がっていると、脊椎を通る神経を圧迫してしまう。

枕の形状も重要だ。頭を置く中心が大きくくぼみ、左右が高くなっているドーナツ型の枕も多いが、頭が固定されてしまい逆に寝返りが打ちにくくなる。表面が平らな四角形をした枕がよい。低反発ウレタン素材などに多い凹凸型は頚椎(けいつい)のS字カーブに沿って波打つようなものだが、山田院長は「寝違えを訴える患者に使用者が多い。神経を圧迫する構造なため避けたほうがよい」と警告する。

横向き専用商品も

中高年に多い睡眠時無呼吸症候群の場合は、「なるべく横向きで寝るよう勧める」(神経研究所付属睡眠呼吸障害クリニックの高橋康郎院長)。あおむけだと舌がのどをふさぎ、呼吸しにくくなるためだ。最近では耳の部分をくぼませた、横向き専用枕も登場している。

硬さを決める素材選びも大切だ。低反発ウレタンや羽毛、ソバ殻、プラスチックチップなど様々な種類がある。軟らかいほうが包み込まれる感覚を得られて気持ちいいが、これを実感できるのは寝付くときだけ。せっかく適切な高さを選んでも、睡眠中に高さが大きく変わっては意味がないので、頭が沈み込まない程度の硬さが目安になる。

素材の粒が細かいと、頭ののっていない場所に素材が偏る。中身が均一になる素材や、枕の構成要素がいくつかのパーツに分かれて偏りが出にくいものを選ぶとよい。

市販品の枕の高さも細かく分かれて売られていたり、オーダーメードで枕を作ってくれる店もある。店内にベッドが置いてあり実際に体験できる場合は、なるべく長い時間使ってみると良いだろう。

たとえ最適な枕を選んでも、自宅の敷布団の硬さや使用期間で感覚は変わる。山田院長は「低くなったらタオルケットを挟むなど、使用中も微調整が欠かせない」と話す。
(鳳山大成)

以下にあてはまる人は今の枕を疑ってみよう

  寝ているとき
□あおむけで寝られない
□枕の上に手を添える
□枕を外してしまう
□口呼吸になる。いびきがひどい
□枕の形を整える
□寝相が悪い

 朝起きたとき
□首や肩の周りがだるい
□顔がむくんでいる
□頭痛、顔面のしびれ、耳が痛い、あごの関節の違和感などの症状がある
□手のしびれやこわばりがある
□熟睡感がない

ひとくちガイド
《本》
◆いびきや椎間板(ついかんばん)ヘルニアなど様々な症状に応じた枕選びのコツを知るなら
「枕革命 ひと晩で体が変わる」(山田朱織著、講談社プラスアルファ新書)

◆枕の基礎知識や人気ランキングなどが掲載されている枕の総合ポータルサイト「ぴろコレ」(http://homepage2.nifty.makura/

 

2007.11.18記事提供:日経新聞