塩分と高血圧との関連はよく知られている。世界保健機関(WHO)は、高血圧予防のために摂取量を1日当たり5グラム未満にすることを推奨する。ところが日本人の平均は、主に脳卒中予防対策の一環による減塩運動で、何年もかかってようやく11グラムにまで減った。
食習慣の偏りはなかなか自覚しにくい。各国の食文化を比較すると、日本人は塩気の強いものが好きで、塩分摂取量も多い。それに関連してか、脳卒中と胃がんが多く、国内でも塩分摂取量の多い地域ほど、概して、これらの病気の発生率が高い。
日本の4地域に住む男女約4万人を対象に食習慣実施、塩分摂取量と、その後約10年の胃がん発生率との関連を分析した。
まず、食塩摂取量ごとの胃がんリスクについては、男性では、最も多いグループの2倍になった。次に、高塩分濃度の食品5品目(漬物、みそ汁、干魚、タラコ・イクラなどの塩蔵魚卵、塩辛、練りウニなどの塩蔵魚介類については、ほとんど毎日食べるグループの胃がんリスクは、食べる回数が週1回未満のグループに比べ2−3倍高かった。
高塩分濃度の食品の習慣的な摂取は、胃の粘膜を保護している粘液を破壊して、炎症を引き起こす。なめくじに塩をかけると溶けるのと似ている。このような状態では、ヘリコバクター・ピロリ菌という細菌の持続感染を招く。さらに、胃の慢性炎症により、胃がんになりやすい状況となる。
高血圧予防の観点からすると、体の中に吸収されるナトリウム総量を抑えることが重要だが、胃がん予防だと「できるだけ塩分濃度の低いものを選ぶ」「回数を減らす」などの工夫が必要だ。
胃がんは、日本だけでなく世界的に減少傾向にある。最大の功労者は、冷蔵庫を発明し、塩蔵保存の必要性を減らし、新鮮な野菜や果物を食卓にもたらした人たちであると考えられている。
(国立がんセンター予防研究部長 津金 昌一郎)
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