効果と副作用見極め

エストロゲンなど女性ホルモンと乳がん発症とは密接な関係があることを前回紹介した。体内で分泌されるホルモンに限らず、人工的なホルモン剤の使用で乳がんリスクが高くなる場合もある。

2005年7月、国際がん研究機関(IARC)は、エストロゲンとプロゲストーゲンを併用した経口避妊薬服用と閉経期ホルモン補充療法について、発がん性の評価を公表した。

ある女性がホルモン剤を使用する方が良いかどうかは、その人の個人的な考えかたや、固有の慢性病リスク、更年期障害の症状の程度などで異なる。データ公表にあたり、IARCはまず、経口避妊薬にも、ホルモン補充療法にも、期待される効果と副作用があること、個人ごとに総合的なリスクとメリットを担当医とよく話し合った上で、使用について判断すべきだと述べた。

経口避妊薬は、女性の主体的な避妊には欠かせない。IARCの報告書によると、経口避妊薬を使用したグループで、乳がん、子宮頸(けい)がん、肝臓がんリスクが、少しだが高くなった。上昇したリスクは、使用中止後10年間で、使用しなかったグループと同じくらいになった。

逆に、子宮体がんと卵巣がんリスクは、経口避妊薬の使用期間が長いほど低くなった。その効果は使用後15年間続いたという報告もあるという。

また、ホルモン補充療法は、閉経期の女性の顔のほてりや手足のしびれなどの障害に有効で、高齢化による骨粗しょう症を予防できる唯一の処方であると言われる。報告書によると、使用期間が長いほど乳がんリスクが高くなった。また、子宮体がんリスクも高くなるが、この場合、プロゲストーゲンを毎日併用すると、リスクが抑えられるようだ。

IARCの報告は欧米からのデータを主にした評価だ。ホルモン剤に使用方法や、乳がん発生率などが異なる日本人にもあてはまるかどうかわからない。確かな基準を知るためには、日本人を対象とした疫学研究や臨床試験が必須となる。
(国立がんセンター予防研究部長  津金 昌一郎)


2006.1.22 日経新聞