魚は、日本食の健康イメージに一役買っている。エイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)と呼ばれる不飽和脂肪酸が多く含まれ、これらに心筋梗塞(こうそく)などを予防する効果があると考えられているからだ。
われわれが中高年男女4万人を約11年間追跡した研究でも、魚を食べているグループほど、心筋梗塞の発症リスクが低くなった。魚摂取量によって5グループに分けると、最も多いグループのリスクは、最も少ないグループのほぼ半分だった。
日本人のように、もともと魚をたくさん食べる集団でも、より多く食べる人たちで心筋梗塞リスクが低くなった。予防効果は少量でも期待でき、よく食べるほど、より高くなるようだ。
一方、魚の種類によっては、人体に有害なメチル水銀、ダイオキシン、ポリ塩化ビフェニル(PCB)などの有機塩素系残留農薬がある程度蓄積されている。魚を多く食べる人ほど、こうした化学物質の血中濃度が高くなることがわかっている。
これらの物質は、事故などで大量にさらされると間違いなく有害である。ただ、現実的には、日本人が日常の食生活で摂取する範囲で健康影響を評価する必要がある。
食品安全委員会は、妊婦のメチル水銀摂取による、子の神経発達障害のリスク評価を実施した。参考にした海外の2つの研究のうちの1つに、7歳児の脳波測定で、千分の一秒以下の微妙な聴覚障害のリスクが生じる可能性が報告されていた。このような影響が最小限となるメチル水銀の摂取量が決められた。
日本人の食習慣だと、この量を超える可能性がある。厚生労働省は、対象を妊婦に絞り、魚介類の摂取に対する注意事項を示した。
魚の摂取は、妊婦にも大きなメリットがある。ある小さなリスクを避ける行為で、別の重要なメリットが失われる可能性がある。誰に対しどの量でどのようなリスクとメリットがあるのかを見極め、バランスの良い行動をとることが重要になる。
(国立がんセンター予防研究部長 津金 昌一郎)
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