運動で抑制傾向

大腸がんには、直腸がんと結腸がんがある。結腸がんは、欧米に多くアジアに少ないが、日本では増加の一途をたどっている。どうしてか。

原因は生活スタイルの欧米化と言われている。肉中心で野菜不足の食習慣が浸透、肥満傾向の人も増えてきた。運動不足などもその1つだ。

われわれの実施している疫学研究だと、果物・野菜の摂取量は大腸がんリスクとは関係がなかった。欧米の疫学研究でも、果物や野菜、あるいは、食物繊維の大腸がん予防効果をはっきりと示すものは少ない。

肉との関係も、はっきりしない。牛肉などの赤身肉、ハムやソーセージなど貯蔵肉が特に関係するという報告もあるが、強火で焼いたり貯蔵したりする過程で、発がん物質が作られることによるとの解釈もある。

肥満について、われわれの研究では、男性の肥満気味のグループで大腸がんリスクが高くなっていた。ただし、肥満要因で説明できる大腸がんは男性全体の7%、女性では関連がなかった。

食事と大腸がんとの関連性がはっきりしないのに対し、運動不足については因果関係が明らかになってきた。

英国の研究チームは今春、運動と結腸がんとの関係について日本、中国、ニユージーランド、スペイン、スウェーデン、米国などから報告済みの19の疫学研究の結果をまとめ、再検討し報告した。

男女別に、職業または余暇の運動量が多いグループと少ないグループで、結腸がんリスクを比較した。

男性では、職業と余暇の両方で、よく運動するグループでほぼ20%結腸がんリスクが減少した。女性の場合は、職業では差がなかったものの、余暇で約30%リスクが抑えられた。

奥の細道での松尾芭蕉の旅路をたどると、1日あたり20キロ以上歩いた計算になるそうだ。自動車や電化製品が普及し、生活が便利になると、日ごろの運動量が減り、座っている時間も長くなる。日常生活での歩行距離も、仕事や家事上の身体活動も、昔の日本人の運動量は現代人とは比べものにならない。
(国立がんセンター予防研究部長  津金 昌一郎)

2005.11.27 日本経済新聞