大家族の主役お年寄り

 

グルジアの人たちは、長寿の源がお酒だと信じている。年老いてからも実によくお酒を飲む。もちろん昼間だって気にしない。

ぶどうから各家庭が先祖代々受け継がれているという甕(かめ)でワインを造る。

歓迎の宴会で手渡されたのが、牛の角でできた2つの杯。大きめの杯にはなみなみと赤ワインを、小さめの杯にはウオツカをつがれた。杯は先がとがっており、テーブルに置くことはできない。一度つがれたら、最後まで一気に飲み干すしかなかった。

「乾杯!」「乾杯!」。誰かの杯に酒がつがれるたび、皆がかけ声をかける。音頭をとるのは決まって「タマダ」と呼ばれる長老だ。

グルジアの食事は大家族がみんなそろってとる。たいしたイベントがなくても親せき・親類らも集まり大きなテーブルを囲む。そして食の主役はいつもおじいちゃん、おばあちゃんたちだ。
農耕牧畜で生活しているため、長老らはいつも敬われている。実際、長年の経験がものをいう。70代、80代になっても孫やひ孫を連れて牛を追い回し、ぶどう畑の世話をする。毎日、忙しい生活を送り、一生「現役」だ。

核家族化が止まらないニッポン。一人で食事するお年寄りも少なくない。「個食」は大きな社会問題になりつつあるが、グルジアでは無縁だ。

健康にとって、また長生きするため、何を食べるかはとても大切だ。しかし、おいしく食べられなければ食は進まない。もともと、年をとればどうしても食は細くなる。

家族や仲のいい友達らと食卓を囲み、おしゃべりや歌を楽しみながら、時間をたっぷりかけて食事やお酒を楽しむ。こうした食事スタイルが長生きするのにとても大切であることを実感した。

お年寄りらの知恵が尊敬され、大家族で生活する。いくつになっても社会や家族から頼りにされていることが、何よりもグルジアの長寿の秘訣なのかもしれない。
(武庫川女子大国際健康開発研究所長  家森 幸男)


2006.6.11 日本経済新聞