細かい計算より大きく把握
体重で適正値判断
食事・運動で調整

カロリー表示を見て食べたいものを我慢した経験のある人も多いだろう。摂取量が消費量を上回るカロリー過多が続くと、肥満を招き生活習慣病になりやすい。だからといって、カロリー計算に神経質になる必要はない。カロリーの常識を身につけて、普段の生活を見直してみよう。

7月にオープンした「知食旬菜ETSU」(大阪市住之江区)は、糖尿病食専門のレストラン。カロリーを通常より10−30%抑えた和食、洋食、デザートなど約100メニューが並ぶ。肉料理にしいたけやこんにゃくを混ぜるなど、味を落とさずにカロリーを抑えるよう工夫した。

レストランを運営するガイア(大阪市)の勝田良子社長は「糖尿病患者より糖尿病の一歩手前や健康でもカロリーを気にする人の方が来店する。予想以上だ」という。

ニチレイは2年前からダイエットや健康維持のため、1食分を320キロカロリー以下に抑えた冷凍食品を販売している。もともと糖尿病食を手がけてきたが、「ダイエットに使えないか」との客からの問い合わせがきっかけで商品化した。商品開発を担当する同社の飯田亮子さんは「食べ過ぎた時にこれでカロリーを調整する人が多い」と話す。月7万食売れる人気商品だ。

カロリーはエネルギーの量を表す単位。1グラムの水の温度を1度上げるために必要なのが1カロリーで、食事から摂取するエネルギー、運動で消費されるエネルギーにも適用される。摂取カロリーが消費カロリーより多いと脂肪が蓄積する。内臓周辺の脂肪が増えると、高血糖や高血圧などを合併しやすく動脈硬化を招くメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)になってしまう。

しかし、「正確にカロリーを計算しようとすると大変。長続きしにくい」と神奈川県立保健福祉大学の中村丁次教授は話す。カロリー計算は細かい数値の違いにこだわるより、大ざっぱに食べた量や運動量を把握するために活用するといいという。

本当に正確な摂取エネルギー量は、食事を丸ごとミキサーにかけて分析しないと分らない。計算の元となる日本食品標準成分表の食品ごとのエネルギー量は、標準的な値。脂ののったさんまなど季節や地方によっては同じ食品でもカロリーに違いが出る。

毎日のエネルギーの消費量も、細かい数値は把握しにくい。脳や心臓などを動かすための基礎代謝と普段の活動量から計算できるが、基礎代謝の推定値は例えば同じ体重68キログラムの30代男性でも、筋肉質か脂肪が多いかによって最大約300キロカロリーの差が生じる。国立健康・栄養研究所の田中茂穂プロジェクトリーダーは「実際に測定すると、基礎代謝の推定値は一割ほど誤差がある」という。

カロリー計算をする際、無意識のうちに動いて消費したエネルギーや間食などは忘れがち。調査をすると摂取エネルギーも消費エネルギーも過少申告が多いことは、専門家にはよく知られている。
摂取エネルギーと消費エネルギーのバランスが取れているかは、毎日の体重変動が一番参考になる。計算上、体重が1キログラム増えるのは約7千キロカロリーを余剰摂取していることになる。例えば1週間で体重が500グラム増えると、1日平均500キロカロリー、ご飯2杯分カロリー過多だったことになる。

毎日食事ごとにカロリー計算して帳尻を合わせるより「きのう食べ過ぎたとか体重が増えていると思ったら、食事を減らしたり運動したりして調節すればいい」と中村教授はアドバイスする。

「筋肉をつけると基礎代謝が上がりやせる」といわれる。じっとしていても筋肉が消費するエネルギーが増えると考えられるからだ。しかし、やせなかったとの研究報告もある。国立健康・栄養研究所の田畑泉プログラムリーダーは「基礎代謝が上がるとおなかがすいて食べる量も増える可能性がある。やせたいのなら食事にも気を配らないといけない」とみる。

中村教授は「ダイエットするには、カロリー不足の状態を確実につくるのが鉄則」と指摘する。ただ急にカロリーを減らすと、やせた後に体重が元に戻る「リバウンド」という減少が起きやすい。繰り返すとやせにくい体質になる。うまく体重を落とすには、1カ月に1−2キログラム減が目安だ。      
(北松円香)


明日から使えるカロリー調整のコツ
○朝起きたら体重を量ってその日の食事量を考える。朝食前、トイレ後が一番正確
○摂取カロリーと消費カロリーのバランスは、1日単位にこだわらず次の日に調整
○食事を減らすだけ、運動を増やすだけのダイエットは大変。両方を少しずつ
○一気にやせようと思わない。月1−2キログラム減なら気楽で長続きしやすい
○ダイエットは1人でやるより、病院や保健所の管理栄養士に相談。やる気を失わないように励ましてもらおう。




 2006.9.24 日本経済新聞