デブライドメントについての参考論文
SPT におけるデブライドメントの効果所沢市開業 内山 茂
■SPT
SPT(Supportive Periodontal Therapy) とは、「動的な歯周治療の後に開始される治療」のことであり、歯周治療後のメインテナンス時に適用されるだけでなく、「歯周疾患に罹患しているにもかかわらず、全身状態やその他の理由で歯周外科処置が受けられない患者」にも適用される1)。
その具体的術式としては、スケーリングやルートプレーニング、専門家による歯面清掃のほかに、各種歯周検査に基づく患者自身による口腔清掃の再教育、補助療法、化学療法などが適宜追加される。
本稿では、SPT 時における炎症抑制の観点から、とくに歯肉縁上および歯肉縁下のデブライドメントの効果について報告する。
■ペリオドンタル・デブライドメントペリオドンタル
デブライドメントという用語は、
「歯周炎の原因である非付着性および付着性のプラークや歯石を除去する行為」を総称して用いるが、単にデブライドメントというときは、「柔らかい沈着物(プラーク)を除去する」という意味で用いられることが多い。
また単に病原性プラークの除去という意味でディプラーキングという言葉を用いる場合もある。
また、従来の根面をガラスのように滑沢になるまで研磨するルートプレーニングと対比して、根面に付着しているエンドトキシンを一層取り去るだけでセ?メント質を意識的に残す方法を、特にルートサーフェス・デブライドメントということもある。
歯周病のメインテナンス期においては、歯肉縁上および歯肉縁下213mm の歯根表面にバイオフィルム状の成熟したプラーク、壊死セメント質や歯石,エンドトキシンなど,再付着を妨げるさまざまな因子が存在している可能性が高いために、これら各デブライドメントの概念は、SPT の手法を組み立てる上でとりわけ重要と思われる。
■デブライドメントの意義
歯周治療における炎症のコントロールでは、徹底した SRP(scalingroot-planing)が不可欠であるが、初期治療の段階では、ブラッシングなどのセルフケアとあわせ専門家による歯肉縁上のデブライドメントを行うことで歯肉の炎症が著しく改善することも少なくない。
また、歯周治療後のメインテナンス期においてなお SRP をくり返し行うことは、歯根面を必要以上に傷つけてしまう(over instrumentation)可能性も指摘されている5。これらデブライドメントおよび SRP の特質を考慮すれば、歯肉縁下の歯石がほぼ取り去られた後の SPT 時のメインテクニックとして「歯肉縁上および縁下のデブライドメント」を位置づけることは、健全なセメント質の温存、それに伴う歯周組織の再生、知覚過敏・根面齲触の予防などの観点からきわめて意義深いことと考える。
■デブライドメントと PMTC
歯周治療後のメインテナンスにおいては、患者のセルフケアと術者のフォローアップ(おもに歯肉縁上のデブライドメント)が継続して行われる必要がある。筆者らは、歯肉縁上および歯肉縁下約 3mm までのデブライドメントを行う上で、専門家による機械的清掃(PMTC*)がきわめて有効であることを再三にわたって報告してきた。
文献的にみても、これまで SPT における PMTC の効果は?多くの研究により実証されている。
* PMTC(Professional Mechanical Tooth Cleaning)「専門教育を受けた歯科衛生士、歯科医師らが、歯肉縁上および歯肉縁下1〜3mmのプラークを機u的清掃用具とフッ化物配合研磨剤を用いて取り除くこと8」歯周病の原因となる成熟したプラークを、細菌バイオフィルム(複数の細菌が産生した菌体外多糖のなかで、細菌がコロニーを形成した状態)ととらえれば、歯周治療の原則はバイオフィルム自体の機u的除去であり、
PMTC によるデブライドメントは、メインテナンス時においてバイオフィルムを破壊するために不可欠な行為といえる。
なお、近年インスツルメント類の改良が加えられた超音波スケーラーによるイリゲーションが、そのキャビテーション効果により歯根を傷つけずにデブライドメントを行う方法として有効であることも報告されている。
■SPT 時におけるデブライドメントのポイント
歯肉縁からの出血、アタッチメントロスなど歯周病の再発が疑われるケースでしばしば認められる歯根表面の比較的軟らかいプラークに対しては、ワンタフト系ブラシや探針の先、刃先の柔軟なスケーラーなどで歯肉縁上および縁下のディプラーキングを慎重に行い、ポケット内洗浄を念入りに行う。
歯石の再沈着に対してはすみやかに SRP を行うが、この際にキュレットの刃が根面を傷つけたり、過度のルート・プレーニングでセメント質を損傷しないよう気をつける。
その後付着の回復を待って PMTC に移行する。なお、セメント質表面のざらつきや歯肉縁下の歯石の有無を確認するには、目盛り付きのプローブよりも先端が球状になった WH( のプローブを用いると、より繊細な感覚が得られて便利である。
動揺歯の PMTC は研磨時の振動に気をつけ、歯±を指、ミラー、バキューム等で支えて、各種ツールを押し付け過ぎないように十分注意する。歯周治療後の歯肉退縮で露出した歯根面へのフッ化物塗布は毛先の柔らかなワンタフト系のブラシを用い、根面齲?の予防をはかる。
知覚過敏が著しい場合は、各種含嗽剤をぬるま湯に溶かしてミニュームシリンジなどでゆっくりと水圧を加減しながらポケット内を洗浄する。これを繰り返し、症状が軽減したあと各種デブライドメントに移行する。
知覚過敏にはフッ化物塗布が効く場合も多いが、フッ化第一スズ含有のジェルは塗布時にしみる場合があるので注意を要する。
その際にはフッ化ナトリウム含有のジェルを用いる。なお、フッ化第一スズのもつ抗菌作用は歯肉炎の軽減にも有効とされている。
「歯周疾患に罹患しているにもかかわらず、全身状態やその他の理由で歯周外科処置が受けられない患者」などでしばしば起こる歯肉の腫脹、痛み等の急性症状は、投薬、切開、咬合調整、抗菌剤入り軟膏のポケット内注入などにより症状の改善を優先させ、その後、ディプラーキング、ポケット内洗浄を頻繁に行う。
■十分な歯周治療が行われた場合の SPT における PMTC
いったん歯周治療が終了した後の歯周病管理における PMTC は、リコールへの動機づけ,歯周病を再発させないための歯周環境の整備、爽快感・予防効果による患者との信頼関係の確立を目的として行う。
初期・中等度の歯周病は、本人の自覚が乏しい場合が多く、継続した管理を続けるためには、リスクを十分説明し、体系付けた歯周治療と合わせて PMTCを行っていくことが大切である。
■重度歯周病の進行抑制・緩和ケアとしての SPT における PMTC
歯周病管理を目的とする PMTC では、原則的に SRP、Curettage、歯周外科などにより縁下のプラークおよび歯石が完全に除去されている必要があるが、例外として「プラークの付着抑制による延命効果を期待した重度の歯周病の管理」がある。
さまざまな理由で縁下の歯石が十分除去できないケースや、骨吸収の量が多すぎて歯周外科が功を奏さないと思われるケースにおいても、頻繁なポケット内洗浄と併せて PMTC を行うことで,症状を緩和し,歯±の延命ができた例を多く経験している。医科にターミナルケアがあるように,歯科においても苦痛緩和,精神的援助をも含めた(歯の)延命治療があってもよいと考えている。
■おわりに
筆者は以前から長期的な観点で、歯周病を「易再発性」の疾患ととらえ、継続した口腔ケア(SPT)の必要性に着目してきた。
つまり,生活習慣病としての色合いがきわめて濃厚な歯周病に一時的な治癒を求めるのではなく、進行が停止した状態を末長く維持していくためのシステム作りを通して、治療と再発の絶え間ないせめぎ合いにピリオドがうてないものかと模索を続けてきた。
今回紹介した SPT 時のデブライドメントのテクニックは、歯周治療の予後の安定に深く寄与するだけでなく、インプラントや補綴物装着後のメインテナンス、高齢者・有病者の口腔ケアなどにも十分応用が可能なものである。
文献
1. アメリカ歯周病学会:AAP 歯周治療法のコンセンサス、クインテッセンス出版、IX-34、1989
2. 加藤久子:プロフェッショナル・スケーリング・テクニック、医歯薬出版、2,2001
3. 北川原健ほか:歯肉縁下のプラークコントロール、医歯薬出版、20、2002
4. 山脇健史ほか:歯肉縁上のプラークコントロールの効果、歯界展望 Vol.97No.5 2001-5,1018
5. 石川烈ほか:歯科医のためのスケーリング、ルート・プレーニング、クインテッセンス出版、111,2003
6. 内山茂:口腔ケアと PMTC、日本歯科医師会雑誌、Vol.51 No.12、28,1999
7. 新田浩、小田茂、石川烈:SPT における PTC の科学と意義と実際、歯科衛生士、Vol23No.6/1999、20
8. Axelsson. P.:臨床予防歯科の実践、EIK( C(RP(RATI(N,東京、84.1992
9. 恵比須繁之ほか:現代臨床におけるプラーク・コントロールの考え方(T);細菌バイオフィルムとしてのデンタル・プラーク.the ,uintessence.vol.16No.11.176.1997
10. 品田和美;歯肉縁下処置の実際、歯肉縁下のプラークコントロール、医歯薬出版、92、2002
11. 島田昌子;デブライドメントの実際、歯肉縁下のプラークコントロール、医歯薬出版、101、2002
12. 内山茂、波多野映子、長縄恵美子:PMTC、医歯薬出版、東京、62,1998
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